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#609 MCみたいな女

「あ、アイスコーヒーとアイスティーを一つずつ。以上で。」

シンジは店員に注文を伝えた。

「あ、そういえば自己紹介まだでしたよね。初めまして、シンジです。」

「ミユキです。」

「なんか緊張しますね。こうやってマッチングアプリで実際に会うって。」

「そうですね。」

「・・・似合ってますよ?」

「え?」

「その白のワンピース。」

「あっ・・。」

「ラインですごい心配してたけど、全然似合ってますよ。」

「よかったです。」

「てか、実際会うとなんか敬語になっちゃいますね。」

「確かに。」

「とりあえず、ラインしてる時みたいにタメ口にします?」

「ふふっ。その提案が敬語じゃないですか。」

「あ、はは。ごめん。緊張しちゃってさ。」

「私も緊張してる。」

二人の間に流れていたぎこちない空気が少しずつ薄らいでいった。

「あ、そういえば・・ここ来る時面白いことあってさ。」

シンジが言った。

「おんおんおん。どしたん?」

「・・・ん?ああ、来る前に駅で電車待ってたのね。」

「おんおんおん。ほんで?」

「あっ・・・でね。電車待ってたらさ、隣に電話してるサラリーマンいてさ。」

「おんおんおん。」

「ちょうどその時に電車来たのね。」

「ほんでほんで?」

「そしたらそのサラリーマンが、今から電話に乗るんで一回電車切りますねーって言ってたの。」

「ひゃー!!!!!」

ミユキは引き笑いをしながら手を叩いた。

「電話と電車が逆になっちゃったのね?ひゃー!!!!」

「・・・ああ、はは。」

「おもしろーい!そんな人いるんだね!」

「・・・うん。」

「あ、ていうか・・なんて呼んだらいいかな?」

ミユキは出会った当初のおしとやかなトーンで言った。

「え?ああ・・・」

「なんかラインとかしてる時もなんて呼べばいいかわからなくてさ。」

「確かにそうだね。」

「名前呼ばないの、なんか変だからさ。学生時代はあだ名とかあった?」

「えーっと俺、苗字がカネコだからさ。」

「えーーーー!!!!!」

「・・・え、なに?」

「カネコさんっていうんだ!」

「・・・うん。」

「おん、ほいでほいで?」

「・・・で、まあカネコだから〜・・みんなからはキンちゃんって言われてたかな。」

「キンちゃん!なるほどキンちゃんね!ほいで?他には?」

「あ、他?いや〜・・・」

「え、でも待ってなんでカネコであだ名がキンちゃんなの?なんでなんで?」

「え?いや・・・カネコの金の字の読み方がキンっていう風にも読めるから。」

「おんおんおんおん!・・おん?」

「・・・それで金の字をキンって読んで・・・キンちゃんって。」

「・・・あー、なるほど!ひゃー!!!!」

ミユキは引き笑いをしながら手を叩いた。

「なるほど!そういうことか!」

「ミユキちゃんって、お笑い好き?」

「ん?」

「お笑い。っていうかバラエティー番組。好き?」

「おんおん!なんでなんで?」

「なんかバラエティー番組好きそうだなって。」

「どういうこと、どういうこと!?」

「それそれそれ!その感じ!」

「おん?」

「いや、なんかすごい前のめりで相槌してくれるからさ。なんかMCみたいだなって。」

「ああ・・。」

「同じワード繰り返す感じとか、すごいMCっぽいなと思ってさ。」

「・・・それよく言われるんだよね。」

「え?」

「MCみたいって。やっぱりMCみたいだよね。」

「え?いや・・」

「私さ、話聞く時・・・MCみたいになっちゃう女なんだ。」

「あ、珍しいね。」

「直そうとは思ってるんだけどさ。話に入り込んじゃうとつい、MCみたいになっちゃうの。しかもタイプで言うと、まくし立てるタイプのMC。」

「そうだね・・・。」

「こんな女、嫌だよね?」

「え?」

「自分の彼女が、話聞く時にMCみたいになる女だったら嫌だよね?ごめんなさい。私、帰ります。」

「ちょっと待って!!!!!」

シンジはミユキの腕を掴んだ。

「・・・好きです。」

「え?」

「ミユキさん、俺好きです!」

「でも、私MCみたいになっちゃうんだよ?」

「それでもいい!!!!」

「シンジくん?」

「確かに最初は戸惑ったけど・・・でも!!!あんなに話しやすかった女の人、ミユキちゃんが初めてだった!!!!好きです!!!!」

「本当にいいの?MCみたいな女だよ?」

「MCみたいなところが好き。」

「これから先、トークの途中で急に大喜利とか振っちゃうかもしれないよ?」

「構わない!!!」

「例えとか挟んだりしちゃうけどいいの?」

「好きなだけ挟んで!!!俺の前ではいつでもMCでいて!!!ミユキちゃん、俺と付き合ってください!!!」

「えー!!!!!!」



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