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#608 追いかける男

「ねえ、なんで黙ってるの?」

ミユキは向かいの席に座っているマサトに言った。

「やっぱり私との将来を考えてくれてないの?」

「そんなことないよ。」

「じゃあなんで黙ってるの?」

「いや、俺だってミユキと結婚したいとは思ってるよ?でも、お金のこととかもあるし・・・」

「じゃあそのお金の問題はいつ解決するの?」

「・・・・」

「いい加減将来のことも考えてよ!いつまでも自分の夢ばっかり追ってさ!10年役者やって何も結果出てないんだよ?私との将来のことも考えてよ!」

「・・・ごめん。」

「もういい!」

ミユキはテーブルを叩いて立ち上がった。

「私、もう行くね!さようなら!」

ミユキはバッグを持って、店内を飛び出して行った。

「ミユキ!待てよ!」

マサトも急いでミユキの後を追った。

「ミユキ!待てよ!」

「来ないで!」

「ミユキ!」

人気のない公園の前で、マサトはミユキのことを捕まえた。

「ミユキ!」

「離してよ!もう別れる!」

「待ってくれって!」

「離してってば!」

「離さない!!!!」

「え?」

「俺、ミユキのこと離さない!!!!」

「マサト・・・。」

「700円。」

マサトはミユキに手を差し出した。

「え?」

「さっきのファミレスのお金。まだもらってないから。」

「・・・・は?」

「ドリンクバーと、メープルパンケーキ代。」

「え?お金?」

「だって払ってないでしょ?」

「そうだけど・・・」

「本当は780円だけど、まあ端数はいいよ。だから700円。」

「いや、ちょっと待って?私のこと止めにきたんじゃないの?」

「え?」

「私と別れたくないから追いかけて来たんじゃないの?」

「いや、700円回収しに来た。」

「回収って・・。」

「もう正直・・・別れるのはしょうがないかなって思ってる。」

「えぇ!?」

「俺、会計済ませてないのに勝手に店出て行くような人ってどうなんだ?ってなっちゃって。」

「え?」

「やってること食い逃げとか万引きと一緒だなって。」

「いやいやいや!」

「結婚とかも考えてたけど、そういう犯罪署予備軍とはちょっと・・・」

「犯罪者予備軍!?」

「だってそうじゃんか!前にもあったよね?ラーメン屋さんで喧嘩になってさ!もう食い逃げ常習犯じゃん!」

「その言い方やめてよ!前も今回も、マサトが私との将来を考えてくれてないから!」

「だからって出て行くのはおかしいよね?お金払ってからでいいじゃん!お店にも迷惑かかってるよ?今だって迷惑かかってる!そうでしょ!」

「それは・・・本当にそう!」

「でしょ?」

「わかったよ。700円ね?」

ミユキはバッグから財布を取り出した。

「あ、今1000円しかない。」

「じゃあ1000円でもいいよ。お釣り出ないけどいい?」

「いいわけないでしょ!」

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