
#546 犬を散歩させる女
ユキオが公園のベンチで読書をしていると、足元に一匹のワンちゃんが駆け寄ってきた。
「あらー、可愛いワンちゃんだね。」
ユキオがワンちゃんに優しく話しかけると、飼い主の女が申し訳無さそうに言った。
「こら、そっちじゃないよ。すみません、ホントに。」
「いえいえ!すごい可愛いですね!」
「え?・・・ああ、ありがとうございます・・。」
「お名前なんて言うんですか?」
「え?」
「あ、お名前です。」
「え?あ、サトウユカリです。」
「ユカリちゃんですか?かわいいねえ、ユカリちゃん!」
「え?」
「ユカリちゃんってことは、女の子ですか?」
「もちろん、はい。」
「何歳なんですか?」
「え、ちょっとさっきからなんなんですか!」
「はい?」
「いきなり初対面の人に向かって!名前だけならまだしも、年齢まで聞いてきて!失礼ですよ!」
「は?」
「ナンパのつもりかもしれませんけど、私そんな軽い女じゃないんで!」
「あ、違いますよ?僕、ずっとこのワンちゃんのこと聞いてたんです!」
「え?」
「あの、お姉さんに聞いてたんじゃなくて!ワンちゃんのこと聞いてたんで!え、じゃあ待って?ユカリってお姉さんの名前?」
「はい。」
「あー、そういうこと?どおりで、ちょっとワンちゃんっぽくない名前な気がしたけど!お姉さんの名前じゃなくて、僕ワンちゃんの名前が知りたいんです!」
「なんですか?ちょっと私に強く言われたからって、誤魔化そうとしてるんですか?」
「違いますよ!」
「そんなんじゃ誤魔化されませんよ、私!」
「違いますって!ホントにこのワンちゃんの名前が知りたかっただけです!」
「え、じゃあなんでそんなに慌ててるんですか?」
「慌ててねえだろ!」
「そもそも、ウチの子の名前を知ってどうするんですか?」
「は?」
「何に利用するつもりですか?ちょっと、もうごめんなさい。警察呼ばせていただきます!」
「ふざけんなよ!あんたのところの犬が寄ってきたから、可愛がっただけなのに!なんで警察呼ばれないといけないんだよ!タチが悪すぎるだろ!」
「怖い・・。大きい声怖い・・。」
「やめろよ!怯えるなよ!本当に俺が危ないやつみたいになっちゃうじゃねえかよ!」
「私はただ犬の散歩をしてただけなのに・・。なんでこんなことに・・。」
「こっちのセリフだよ!なんで本読んでただけなのに、こんな目に合わないといけないんだよ!いいか?俺は、お前みたいな女なんかナンパしねえよ!調子のんな!」
「・・・ひどい!!!なによ、振られたからって!!!あんた最低!!!」
飼い主の女は叫びながら、犬のウンチが入った袋をユキオに投げつけた。
「最低です!!!警察呼ばせていただきます!!!」
「俺、どうすればよかったんだよ!!」