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#264 意外な一面を持ってた恩師

恩師であるナカタ先生と飲んだ後、2人で自転車を押しながら家に向かって歩いた。

「いやー、まさか先生と最寄駅が一緒だったとは。」

「ホントだな。まさかお前とあの店で会うとは思わなかったよ。」

最寄駅前の焼き鳥屋で1人で仕事終わりに一杯やっていると、突然後ろから肩を叩かれた。振り返るとナカタ先生が立っていた。15年ぶりに再会したナカタ先生は少し白髪が増えたものの、当時とほとんど変わっていなかった。

「でも15年も経ってるのに、よく僕だってわかりましたね。」

「わかるに決まってんだろう。お前は俺の長い教師生活の中でも一番手のかかった生徒なんだ。どこにいたって一発でわかるよ。」

ナカタ先生は、当時不良だった僕に真正面からぶつかってくれる唯一の先生だった。今僕がまともに暮らせているのは間違いなくナカタ先生のおかげだ。

「まさか先生とお酒が飲める日が来るなんて。フラーっとあの店立ち寄ってホントに良かったです。」

「ホントだな。教え子と酒飲めるなんて、教師やっててこんなに嬉しいことはないよ。」

吹き付ける夜風が、今夜はなんだかいつもより気持ちよかった。

「先生。僕15年前に先生と出会ってなかったら、今頃きっとろくでもない大人になってました。」

「なんだよ急に。」

ナカタ先生は照れくさそうに笑った。

「先生に言われた、自分の決めた道をとことん突き進めっていう言葉。今でもすごく大事にしています。」

「そうか。それは嬉しいよ。また近いうち、あの店で一緒に飲もうや。」

「はい。もちろん。」

「すぐ連絡するよ。俺そこの角を左なんだけど、お前どっちだ?」

「僕は右です。」

「そうか。じゃあそこでお別れだな。」

僕らが分岐点の角に向かって歩いていると、向かいからやってくる警察官に声をかけられた。

「すみません夜分遅くに。最近この辺で自転車の盗難が相次いでおりまして、防犯登録の確認だけご協力いただいてもよろしいですかね?」

僕が警察官の要請に応じようとすると、ナカタ先生が声を上げた。

「礼状はあるんですか!?」

「いえ。礼状はありませんけど・・。」

「礼状無いんですよね!?だったら任意ですよね!?じゃあ私はあなたの要請に応じることはできません。」

ナカタ先生は、僕が今まで見たことないほどにバキバキの目をしながら警察官を威圧した。しかし、警察官も引き下がらない。

「まあ任意ではあるんですけど、ご協力いただけませんか?」

「嫌です!!!拒否します!!!」

「何か後ろめたいこととかあるんですか?」

「ありません!!!」

「じゃあご協力いただけますよね?」

「嫌です!!!拒否します!!!」

「なぜですか?」

「任意だからです!!!もし防犯登録の確認をしたいのであれば礼状を持ってきてください!!!」

僕はなんだかすごく悲しい気持ちになった。まさか自分にとっての一番の恩師が、SNSでバズるタイプのやばい大人だったとは。

「お願いしますよ。防犯登録だけさせていただければ終わりますので。」

「いやです。これは法律違反ですよ?」

ナカタ先生は携帯のカメラで警察官を撮影し始めた。

「ちょっと撮らないでください。」

「誰が払った税金で飯食べてると思ってるんだ!!!」

「防犯登録の確認させてください。」

「拒否します!!!令状を持ってきてください!!!」

困り果てた警察官は、無線で応援を呼んだ。

ナカタ先生はなぜこんなにも拒否するのだろうか。まさか先生が今押してる自転車が、盗んだものなのか?いや、ナカタ先生がそんなことするはずがない。他人の痛みをわかれって言ってくれたあのナカタ先生が。


「あのー、じゃあ先にお連れさんの防犯登録だけさせていただいてよろしいでしょうか?」

警察官が僕に話しかけてきた。僕が警察官の要請に応じようとすると、ナカタ先生が口を挟んできた。

「拒否します!!!任意ですよね!!!」

「あ、すみません。今お連れ様に聞いてますので。」

「拒否します!!!令状を持ってきて!!!」

「先生、僕礼状無くても大丈夫ですけど。」

「何言ってんだお前!!!これ任意だぞ!!!」

「別に任意でもいいんですけど。」

「バカ!お前がやったら俺もやらないとだろ!!」

「先生。何もやましいこと無いなら応じたほうがいいですって。」

「任意だぞ!?」

「確かにそうですけど。応じないとどんどん怪しまれますよ?」

僕は説得を試みたが、先生はものすごい勢いで反論してきた。

「何だ貴様!!!元不良の分際で!!!貴様も国家権力の手先か!!!」

先生は僕にカメラを向けた。

「こいつが国家権力の手先です!!!権力の犬!!!」

ナカタ先生のこんな一面知りたくなかった。今夜あの店に入らなければ。僕は数時間前の自分の行動を死ぬほど後悔した。

すると応援の警察官が駆けつけてきた。

「ちょっとごめんなさいね。防犯登録の確認だけさせていただいてもいいですか?」

「拒否します!!!助けてください!!!」

先生は警察官に囲まれてしまった。まさか自分が一番お世話になった恩師が警察官に囲まれてる姿を見ることになるとは。

先生が囲まれている間に、他の警察官が先生の自転車の防犯登録を進めた。

「ちょっと!!!勝手にやらないでください!!!憲法違反ですよ!!!」

「まあまあ落ち着いて。」

「助けてください!!!!憲法違反です!!!!」

先生が騒いでいる間に、警察官は防犯登録を終えた。

「確認取れました。こちらの自転車の名義がナカタ シンイチさんですね。」

この自転車は先生の名義だった。

「あのー、すみません。お名前だけお伺いしてもよろしいですか?」

「拒否します!!!任意ですよね!!!」

「何か名乗れない理由があるんですか?」

「任意なので!!!名乗りたくありません!!!」

先生はなぜか、自分で自分を窮地に追い込んでいた。

「先生!なんで名前言わないんですか!!」

「任意だから!!!」

「いやそういう問題じゃないでしょ!!!自分の自転車なんだから!!!」

僕は先生の代わりに警察官に説明した。

「僕この人の教え子なんですけど!この自転車、この人のです!この人ナカタシンイチです!」

「あ、そうなんですか?」

「だから盗んだ自転車じゃないと思います!」

「え、なんで名前言わないんですか?」

「俺警察嫌いなんだよ!!!」

「嫌いだとしてもじゃないですか?」

「任意なんで!!!」

自分の決めた道をとことん突き進めって言う言葉、そういう意味だったのかな。

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