#622 スキャンダルを書かれた男
「はい。写真は抑えたんで。後ほど原稿送ります。はーい。」
クワノは電話を切ると携帯をポケットにしまった。
「あ、あのー。」
クワノの背中から声がした。振り返るとそこには一人の男が立っていた。
「あれ?もしかしてモリモト選手ですか?」
「ええ。あなたが記者のクワノさんですか?」
「はい。そうですけど。」
「ちょっとお話がありまして。」
「え?もしかしてこの前書いたあなたの二股疑惑の記事に関してですか?」
「ええ。その見出しのことで、ちょっと言いたいことがあって。」
「あの見出しの何がいけないんですか?一流Jリーガー、まさかの泥沼二股疑惑!これ事実ですよね?」
「ええ、事実ですけど。でも盛りすぎです。」
「はい?」
「僕、確かにチームではレギュラーですけど、日本代表には選ばれてないし!ディフェンダーだから目立たないし!なのに変に一流Jリーガーとか書くから、SNSとかでこいつ誰?とか、一流?みたいなコメントばっかになってて!結果全然話題にならなくて!」
「は?」
「変に滑らせるのやめてもらえませんか?」
「僕は今何で怒られてるんでしょうか?」
「僕の記事が出るってなって、チームで一回謝罪会見やろうかーみたいな雰囲気出たんです。それなのに全然話題にならないから、あれこれやる意味ある?ってなって!結局会見中止になった僕の気持ちわかります?」
「あ、そんなことになってたんですか?」
「それにこれ見てください。」
モリモトは自分の携帯の画面をクワノに見せた。
「今モリモトって検索すると、真っ先に出てくるのが、モリモト 誰?です。2ちゃんねるでは僕が一流か一流じゃないかを議論するスレッドが立ちました。その結果、どうなったと思います?」
「え?いや・・・」
「スレッド自体が盛り上がらなくて、すぐに落ちましたわ!一流かどうかの議論すらしてもらえないなんて!こんな悲しいことないですよ!」
「そうなんですね。」
「でもちゃんと親戚とか彼女には届いたからしっかり怒られて!二股してた両方に振られて!なんか損しかないですわ!」
「あなたがいけないんでしょ?」
「あんな修羅場があった上に、世間的に滑らされてもう最悪なんです!だから今日は追加でまだ記事なってない、僕のスキャンダル持ってきました!」
モリモトはそう言って茶封筒をクワノに突きつけた。
「は!?」
「これ記事にして、僕のことガンガン燃やしちゃってください!」
「自分で燃料投下するってどういうことですか?」
「もうなんかあんなに怒られたなら、世間的にもある程度話題にならないと!痛みのバランス取れないっていうか!」
「どういうことですか!?」
「どんどん書いてください!」
「書きませんよ!」
「なんでですか!」
「あんたの記事書いても金にならねえんだよ!」
「え?」
「いいか?こっちだって被害者なんだよ!あんたならもうちょいやれると思って記事書いたのに!発行部数今シーズンワーストだったわ!」
「マジかよ!」
「あんたが話題にならないせいで、デスクに怒られたし!もうあんたのこと記事にしたってロクなことにならないんだよ!」
「最悪だ!編集者にも迷惑かかってたのかよ!でも大丈夫です!この追加の燃料があれば!」
「いらないって!こっちは今、連ドラ俳優の不倫記事で忙しいんだよ!」
「お願いします!そこをなんとか!僕を炎上させてください!謹慎くらいまではいけます!いかせてください!」
「何言ってんだあんた!」
「書いてくださいよ!俺、高校時代に校則で禁止されてた原付に乗って学校行ってたんです!これどうですか?」
「弱いよ!弱すぎるよ!早く帰れ!この二流が!!!!!」
クワノはモリモトを突き飛ばそうとしたが、モリモトはびくともしなかった。
「ディフェンダーの体幹強い!!!!」