バイデンのことば(2)(情報の読み方)
2022年04月14日の読売新聞(14版・西部版)1面に、「ウクライナ/米大統領「ジェノサイド」/戦争犯罪 米欧が糾明支援」という見出し。バイデンは、これまで「戦争犯罪」ということばはつかってきたが、「ジェノサイド」ということばでロシアを非難したことはなかった。しかし、
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バイデン氏は「先週と違い、露軍が行った恐ろしいことを示す証拠が次々に出てきている」と述べ、より深刻な犯罪のジェノサイドにあたると踏み込んだ。
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さて、これだけでは「証拠」が何かわからない。だれが収集した証拠なのかもわからない。ゼレンスキーが「ジェノサイドだ」と批判するのと、バイデンが「ジェノサイドだ」と認定するのでは「意味」が違う。「証拠」が必要だ。さらに、ほんとうに「ジェノサイド」があったのだと仮定して、それをどうやって「裁く」のか。ロシアに認めさせるのか、という問題が残る。「ジェノサイドだ」と批判すればおしまいではない。
このことはバイデンもいくらかは理解している。だから、国際刑事裁判所(ICC)が動き出している。(外電面で補っている。(数字は私がつけた。記事は、一部省略している。)
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①バイデン米大統領は12日、ロシア軍の行為を「ジェノサイド(集団殺害)」と非難した。ロシア軍の管理下で起きた事件などについて、日本を含む40か国以上が戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)に捜査を要請し、ICCは証拠集めに着手した。
②ウクライナの捜査当局は12日には、多数の民間人の遺体が見つかったキーウ近郊ブチャでフランスの法医学専門家チームと一緒に捜査を進めた。
③ICCには日本や英国、フランスなど123か国・地域が加盟しているが、ロシアや米国、中国などは入っていない。
④ウクライナも加盟していないがICCの捜査を受け入れると宣言している。捜査の結果、証拠が固まればICCは容疑者引き渡しを求めるが、加盟国でないロシアに応じる義務はない。
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①からは、戦争犯罪は、当事者でなくても捜査を要請できることがわかる。被害に遭っている国は、それを要請しているだけの余裕がないかもしれない。また、他国の問題といって、当事者ではない国が「戦争犯罪」を見逃すのは、人道的にもおかしいから、これはごく自然なことと思える。
②からは、フランスが捜査に参加していることがわかる。フランスのことしか書いていないのは、日本やアメリカは参加していない、を意味する。「証拠」があるとしても、それはフランス経由のものであって、アメリカが直接捜査したわけではない。これだけでも、バイデンの主張が「他人任せ」の要素を含んだあやしいもの、世界でいちばん影響力のある人間が軽々しく口にしてはいけないことばだとわかるが……。
③では、なんと、アメリカはICCには加盟していないのだ。たぶん、アメリカが行ってきた「侵略/虐殺」というものを、国際機関で裁かれることを拒否するためだろう。イラクやアフガンでアメリカが行ってきたことを(当時は行っていることを)裁かれたくない。だから、加盟していない。
④では、はっきりと、加盟していない国には判決というか決定を受け入れる義務はないと説明している。アメリカは「判決を受け入れる義務」を回避するために、ICCには加盟していないということがわかる。
それなのに。
ICCを利用して、ロシアを批判しようとしている。アメリカの主張を正当化するためにICCを利用しようとしている。
これは、おかしくはないか。いわゆる「二重基準/ダブルスタンダード」というものだろう。
ウクライナで起きていることは悲惨である。だれだって人が殺されているのを見れば、殺されている人に同情する。殺した人を批判する。そのとき強いことばで批判すればするほど、批判した人は「正義の人」として認められるだろう。
バイデンは、そういう「正義の人」になろうとしている。アメリカこそが「正義」なのだと言おうとしている。これは、私には、非常に危険なものに思える。
「正義」を振りかざす以上、「正義の判断」にはしたがうという姿勢を示さないといけない。まず、アメリカ自身がICCに加盟しないといけない。
私はきのう、いま求められているのは「武力戦争」でも「経済戦争」でもなく「ことばの戦争(外交/対話)」だと書いたが、バイデンの「ジェノサイド」発言は「言いたい放題」であって、議論ではない。議論というのは「同じ場」に立つことが第一条件である。自分にはある規則を当てはめないが、他国には規則を当てはめる、では、「アメリカが法」になってしまう。実際、バイデンが押し進めようとしていることは、すべてをアメリカが決めるままに支配するということである。
バイデンのことばからは、そういうことがわかる。ロシアがウクライナで行ったこと(行っていること)は厳しく批判されなければならないが、その批判は、「根拠」をもったものでないといけない。バイデンは、きのう取り上げた「物価高はプーチンのせい」ということばが特徴的だが、他人を批判することでバイデンの政策を「隠す」という動きをする。他人を批判せずには、自分を正当化するということができない論理である。