読売新聞を読む(2023年03月08日)
2023年03月08日の読売新聞(西部版・14版)の一面。
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「核の傘」日米韓で協議体/米が打診 対北抑止力を強化
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見出しだけ読めば、記事を読まなくても内容がわかる。同時に、疑問も、読んだ瞬間に浮かんでくる。
私が見出しから理解した内容は、北朝鮮の脅威に対応するために、日米韓がアメリカの核運用について協議体をもうけるというものだ。北朝鮮のミサイル開発が進んでいる。日本はいつ攻撃されるかわからない。アメリカの「核の傘」に守ってもらわないといけない。韓国も同じだろう。日米、米韓とばらばらに連携するのではなく、日米韓が共同で対応すべきだ。「もっとも」なことに思える。
記事にも、こう書いてある。
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【ワシントン=田島大志】米政府が、日韓両政府に対し核抑止力を巡る新たな協議体の創設を打診したことがわかった。米国の核戦力に関する情報共有などを強化する。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させる中、「核の傘」を含む米国の拡大抑止に対する日韓の信頼性を確保し、核抑止力を協調して強化する狙いがある。日本政府も受け入れる方向で検討している。
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しかし、私はひっかかる。なぜ、「米が打診」? なぜ「日本が打診」、あるいは「韓国が打診」ではないのか。わざわざ、アメリカが日本と韓国に打診してくるって変じゃない?
記事を読み進めると、こんな部分がある。
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米国のイーライ・ラトナー国防次官補は2日の講演で、対北朝鮮の核抑止に向け「新たな協議メカニズムの議論に入っている。戦略的な作戦や計画への理解を深めるためだ」と語った。
背景には、北朝鮮が射程の短い戦術核兵器の使用をちらつかせる中、米国の「核の傘」の信頼性への不安が日韓で広がっていることがある。米国は協議体を新設し、拡大抑止を提供する断固たる姿勢を両国に示す必要があると判断した。
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イーライ・ラトナー国防次官補の講演の内容が全部載っているわけではないのでわからないが、ラトナーが問題としているのは「戦略的な作戦」、つまり「戦略核」である。大陸間弾道弾である。「戦術核」については、「北朝鮮が射程の短い戦術核兵器の使用をちらつかせる」と書いてあるが、これはラトナーが力点をおいて語ったことかどうかわからない。実際に語っているかどうかもわからない。カギ括弧でくくられていない。ラトナーが言ったのではなく、読売新聞記者の作文だろう。
つまり、である。
北朝鮮はミサイル実験を繰り返しているが、その狙いはアメリカ本土を直接攻撃する能力があるということを誇示するためである。照準はアメリカ大陸にある。アメリカを濃く攻撃できる能力があることをアピールし、アメリカを直接交渉の場に引っ張りだしたい。「戦略的」に北朝鮮は、そういう構想を持っている。アメリカはそれを理解しているからこそ、それに反応し、ラトナーは「戦略的」ということばをつかっている。
そして、それに対抗するために、アメリカはさらに「戦略核」の能力を高めようというのではない。日本、韓国の基地から「戦術核」を使用しようとしている。その協議を進めようとしている。アメリカ本土が攻撃される前に、日本、韓国から北朝鮮を攻撃できるのだぞ、ということを北朝鮮にアピールしようとしている。
「戦略」と「戦術」ということばが、記事のなかでつかいわけられているが、これが今回の作文ニュース(特ダネ)の「ポイント」(ほんとうのニュース)なのである。
言い直せば、アメリカから大陸間弾道弾をつかって北朝鮮を攻撃するのに、日本や韓国と協議などしなくても、アメリカ独断でできるだろう。それに、大陸間弾道弾の方が経費もかかれば時間もかかる。戦術核をつかって日本、韓国から攻撃すれば、時間も経費も少なくてすむ。しかし、日本、韓国から「戦術核」を発射するには、日本、韓国の「了解」が必要である。
そういうことを進めるためには、「論理」を一度逆転させて、日本、韓国は北朝鮮の書くの脅威にさらされている。それから日本、韓国を守るためにはアメリカと協力する必要がある、という具合に展開しないと、日本や韓国の国民の理解を得られない、だから「日米間で協議体」をつくろうという形で提案しているのだ。
今回の読売新聞の特ダネ(米政府の発表ではなく、「わかった」という形で書かれている作文)は、それまでの特ダネがそうであるように、読者の(国民の)反応を探るためのアドバルーンなのである。「核の傘で日本、韓国を守るための協議体を日米韓でつくるといウニュースを流すと、日本の国民はどう反応するか」を探っているのである。日本で「これで安心」という声が高まれば、それに乗っかろうというのである。そういう声を高めてから「日米韓協議体」の話を持ち出せば、反論は少なくなる、という腹積もりなのだ。
アメリカを守るために、日本と韓国をどう利用するか。アメリカの考えていることは、それだけである。(アメリカを守るために、ウクライナをどう利用するか。あるいはアメリカを守るために、台湾をどう利用するか。これは、単に「武力攻撃」だけてはなく、「経済戦略」を含めた利用である。むしろ、経済戦略を、「武力」にすりかえて進められている戦略だと私は考えている。)
だから、というのは「論理の飛躍」に見えるかもしれないが。
最近のビッグニュース、日韓の懸案だった「元徴用工問題」が急に解決に向かって動き出したのは、背後にアメリカが動いているからだと考えてみる必要がある。日韓が対立したままだと、アメリカの「戦術核をつかうときの基地として日韓を連動させる」という作戦がうまくいかない。なんとしても日韓を協力させる必要がある。障壁となっている「元徴用工問題」を解決させよう、ともくろんだのだろう。
このあたりの事情を、書かなければ書かなくてもすませられるのだけれど、読売新聞は、例の「ばか正直」を発揮して、こう付け加えている。
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日本政府は、核抑止力の強化につながるとみて打診に対し前向きに検討しつつ、日韓間の最大の懸案だった元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の行方を注視していた。韓国政府が6日に解決策を発表したことで、日米韓の安全保障協力を強化する環境が整いつつあるとみている。
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自分では何一つしない、口が軽いだけの岸田が、韓国政府に働きかけるはずがないし、韓国が突然「方針」を変換するのも、とても奇妙である。アメリカが韓国に圧力をかけたのである。「元徴用工問題」は日本にとっての懸念であるというよりも、アメリカの懸案事項だったのだ。それがあると日韓のアメリカ軍基地を連動させるときに障害になる、と考えたのだろう。
そして、いま、その問題が解決に動き出したからこそ、次のステップ、日本と韓国にある米軍基地を利用して、北朝鮮に「核の圧力」をかける、という作戦に転換したのである。
突然、記事の最後で「元徴用工問題」が書かれているのは、記者に「特ダネ」をリークしただれかが、「ほら、元徴用工問題もアメリカの後押しで解決したし……」と口を滑らせたのだろう。「そうか、そうだったのか」と記者は、自分の発見ででもあるかのように、そのことを「ばか正直」に書いてしまっている。
だから、読売新聞の記事はおもしろい。
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