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「母という呪縛 娘という牢獄」

この事件のことはよく覚えている。
母親に医学部へ入るのを強制され9年間も浪人させられていた娘。
9年かかってようやく娘が医師になることを諦めたのかと思いきや、今度は助産師になることを強要する母親。 
そして娘は母親を殺害し遺体をバラバラにしてしまう。
当時のニュース等のざっくりした情報だけでも、この母親の異常さがわかったけど、この本には事件にいたるまでの長い年月のできごとが詳細に書かれていて、下手なホラーよりよっぽど怖い内容だった。
本当にところどころ寒気がして鳥肌がたつぐらいだった。

人をここまで追い詰めたらこうなってしまうのは仕方のないことかも、とつい思ってしまった。
もちろん命を奪う、ということは決して許されることではないのはわかっている。
でもこの娘は命を奪われるのと同等なぐらい、母親から長い間大事な物を損なわれてきたんだと思う。
人としての尊厳だとか、自由だとか、心だとか。
母親がなぜそこまでして娘を追い詰めたのか、本当の本当のところは本人にしかわからないし、亡くなっているから永遠に知ることはできない。
心底娘のためを思ってしたことなのかも知れないし、自分の虚栄心を満たすためだったのかも知れないし、自分の満たされなさを娘が医師になる、ということで満たされようとしていたのかも知れない。
でも今となってはわからない。

職場に母親の過干渉がひどくて悩んでる人がいる。
就職して一人暮らしをしているのに、渡すことを強要された合鍵を使って不在の家に勝手に入ってきて何日も居座り、家の中をあれこれ探られたりするらしい。
クローゼットの中を見られて、持っている洋服や下着についてあれこれ言われる、と聞いて、びっくりしてしまった。
少しでも文句を言ったり反発すると母親が「いなくなればいいんでしょう」と自殺をほのめかされる言動を取るから我慢するしかない、と言っていてさらにびっくりした。
「どうしたらいいんでしょうね」と言われて、思いつくのは物理的に距離を置く、ということぐらいしかなかった。
たぶん話し合って過干渉をやめてくれるような人は過干渉をしないだろうし、縁を切るレベルで距離を置かないと無理なのかな、と。 
「親子だし今まで育ててもらったから縁は切れないです」と力ない返事が返ってきたけど、まぁそう思ってしまうのは仕方ないよね、と思う。
 
この本でも職場の悩んでる人も圧倒的に父親の存在が欠けていて、母親と子供のあいだに割って入るとか親子という単位ではなく夫婦という単位で生きようと諭すとか、なにかできたはずの父親が見えてこなかった。
なにもできなかったからこういう母娘の関係になったのかも知れないけど。









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