3 健康医療分野におけるDXについて R4.6定例会一般質問③
次に、DXの取り組みでもう一つ、健康福祉分野におけるDXについて伺います。これはまさに県民に便利さを実感してもらえるツールとなると確信します。
世界的にも先進的なのがデンマークとスウェーデンにまたがるメディコンバレーです。それぞれの患者の健康医療に関するデータ、表層的なものではなくディープデータと呼ばれるデータを集積し、それを活用して薬品開発や医療機器開発などの大きなビジネスに繋げています。
もともとDXで最も大事なのは、ディープデータの集積です。ディープデータこそ価値のあるもので、前述のデジタル通貨でも消費者の動向データなどに価値を発揮します。しかしもちろんこれは、個人情報との関係性において非常に収集が困難なものでもあります。中国などの全体主義国家なら別ですが、自由主義国家の日本ではなかなか難しいでしょう。
そこで「オプトイン」という形式が有効です。これは、便利なサービスを受けられるのであれば、自分個人のディープデータを提供してもいいですよ、と個々人が情報提供を了承する仕組みです。逆に言えば、納得するサービスが受けられなければ、個人が便利だと感じなければ、データは提供されません。例えばネット通販などの個人情報が、一企業の販売戦略に利用されるだけで、個人には何の得もない、ということではダメです。しかし、もし納得の出来るサービスを受けられるなら、ある程度の情報は提供してもいい、と答える割合は8割を超えるというアンケート結果もあります。
こう考えると、オプトインして便利なサービスが受けられるのは、健康医療の分野が一番わかりやすいものだということがわかります。
例えば予防医療。毎日の血圧などの体調、どんな運動をしたのか、食事のカロリー、仕事のストレス、といったデータを拠出することで、健康維持のための指導がAIで自動で受けられたりできます。もっと言えば遺伝的な傾向や血液採取のデータから、かかりやすい病気の傾向を知ることも出来るでしょう。これに関しては、慶應義塾大学先端生命科学研究所と協力すれば、山形は全国に冠たる存在になれると思います。そうした健康維持のメリットの一方で、健康的な生活を送っている人に関しては、生命保険の掛け金が安くなる、つまり健康的な生活をしていれば金銭的に得をする、といった時代が必ず来ます。メディコンバレーではディープデータを提供すれば医療費は無料になるくらいです。
もちろん医療現場においても、DXは避けられません。個人の電子カルテを病院や薬局で共有することは、今後必然となってくるでしょう。先日、父が入院手術しましたが、電子化が進んでいる県立中央病院でさえ、手続きやアンケートでいちいち紙媒体の書類を書かねばならないし、アナログのお薬手帳も必須でした。これが他の病院と薬局をまたぐと大変なことになります。在宅医療や遠隔医療のことを考えると、ますます壁は高くなります。
医療や薬局のDXの話になると終わらなくなるので問題提起だけにしますが、他にも行政でやる健康事業なども、あまりにもアナログすぎます。極端な話、どのくらい運動したか、食事にどれくらい気をつけているか、紙に書いて提出すると紙媒体の割引券がもらえる、などという事業すらあります。これでは面倒くさすぎますし、割引券ではその面倒を超すだけのサービスとはとても言えません。五十嵐議員のような散歩マニアでも、わざわざ提出しないでしょう。つまり、よほどの健康マニアでなければそんな事業には参加しませんし、ターゲットにしたいのは健康のことを考えるのが億劫な層なのです。スマートフォンを持って歩くだけで、自動的に先ほど述べた地域通貨100チェリーがもらえる、といった方がよっぽど効果が高いはずです。
こうして考えてくると、スマートフォンがこれだけ普及した今、健康医療の分野こそ、オプトインしてディープデータを提供してもらうことで、個々人に大きなサービスを返せる分野と言うことがわかるでしょう。
しかし、問題なのはオプトインしてもらったデータを管理する主体です。世界的ICT企業が独占したり、国家が独占したりでは、市民のためではなく企業や国家のためになってしまいます。会津若松市では、その問題を解決するために、官学民金、地域のあらゆる分野の人々で構成するコンソーシアムをつくり、所属する各企業等が保存するデータを管理するためのルール作りについて検討しています。一企業でも国家でもない、これが肝なのです。
データを預ける相手は信頼できる存在でなければならないため、行政も入った地域の者で構成されるのが適しています。おそらく健康医療分野だと、村山最上置賜庄内の4地域でまとまるのがベストだと思われます。ただ、各地にそうした機運が自然発生すればいいのですが、やはりここは県が中心となって旗を振り、ディープデータの集積と健康医療分野のDXを先導していく必要があると考えます。
県民が納得して自分のデータを提供しながら、不便なくサービスを受けられ、誰もが健康寿命を延ばしていけるような健康長寿県やまがたをつくるため、健康医療におけるDXの今後の方向性についてどう考えるか、健康福祉部長に伺います。
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