取り調べの可視化
Column~№6
大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件において、取り調べが「威圧的で不法」ということで付審判が決定した。検察では取り調べの録音・録画がすべての事件で義務付けられているが、警察では一定の事件や条件を対象にしている。
取り調べの可視化問題は古くからあり、録音・録画が導入されたのはここ最近の話だ。取り調べでは補助員を入れて取調官と被疑者の2人だけにはならないよう対応が講じられている。補助員は単に取り調べを見ているだけではなく、取り調べの開始時間や終了時間の書類を作成したり、時には取り調べ状況の報告書を作成したりもする。
また補助員は先輩・上司の取り調べを見て学ぶ、ある種の伝承機会の付与となるが、取り調べも自分にあった方法やスタイルがある。実際、私も若い頃補助員を務めたことがあるが、取調官によって様々なスタイルがあり唯一無二と言っても過言ではない。
また今の取調室では全室禁煙でスマホ1台持ち込めない。全室禁煙なのは「面倒見」を防止するためで、面倒見とは留置施設内では煙草が吸えないため、取り調べが終わっている被疑者を取調室に連れ出し煙草を吸わせることである。
スマホの持ち込み禁止は家族などに連絡を取らせないようにするためで、これらは「利益誘導」を防止するための措置である。
この利益誘導や問題となった威圧的な取り調べの根底にあるのは「供述の任意性」である。この任意性を確保するため被疑者を取り調べる際は手錠を外し、供述拒否権を告げるのだが、この任意性がきちんと確保されているかを確認するため録音・録画が導入された。
私も取り調べを行った立場として今思えば、この録音・録画は自分の正当性を守ってくれるものだと思っている。それは実際にやってもいない利益誘導を受けたと口にする被疑者もいるからだ。
私は威圧的な取り調べを推奨し、また賛同するつもりはないが、被疑者の中には全く反省もなく自分の犯罪行為を平然と正当化する者が少なくない。警察や検察がそんな被疑者を咎める権利があるわけではないが、「そう言う理由でやったんですね」、「どうしてそんなことになったんですか?」などと被害者感情も考えない取調官が正しいとは思えない。
取調官は否認をしたり悪態を吐く被疑者から話を聞き、事件の真相を明らかにするために供述調書を作成する。被疑者が否認を続ければ取調官としての能力が疑われる組織的問題も内在しているのは確かだが、私が現場で感じたのは有罪が確定した際に取り調べ時の態度を加重処罰の対象とすれば被疑者の態度も大きく変わるのではないかと思う。
もちろん反省の度合いも裁判では考慮しているが、私見として素直に認める者と悪態を吐き否認する者とをもっと明確に区別して重罰化すべきだと思う。そしてそんな制度が導入されれば取調官による供述の強要もなくなるのではないかと感じている。