見出し画像

第8章「暗号の人物」-2

 確かに書籍を利用した暗号は昔から使われている。しかしその書籍が分からなければ解読すらできず、また書籍が特定できても数字の使用方法が理解できなければ解読はできない。だが小沼は解読するための書籍を気にすることなく、発想と閃きで暗号の組み立て方法を解読しようと考えていた。それは正に数字を完全に手中に収めているからこそ自在に操ることができると並木は感じた。
 ただ小沼が口にしたことが正解なのかはまだ分からない。しかし誰もが思考する解読方法が最も可能性が高いと考えていたのも事実だったので小沼のアドバイスは参考になった。
「これって事件に関係があるなら、あまり深入りしなかった方が良かったかな……」
 小沼は2人が初めて出会った時に「川口中央警察署で未解決事件の捜査をしている」と口にして、並木が怪訝な顔をしたことを気にしていた。以来小沼は並木の仕事の話には触れないよう気を遣うようになっていた。
 当然守秘義務があるため仕事上の話に制約を掛けていたが、今の2人の関係を考えれば過剰な反応と配慮はせっかくの時間を阻害する。そう思うと何か言葉をかける必要があったが、その言葉が並木には見つからなかった。ただ今はこの暗号を一日でも早く解きたかったので、もう少し小沼の力を借りたいというのが本音だった。
「暗号というか、おそらくメッセージに近いものだと思うんだがどうだろう。ただ何のために残されたものなのかも分からないし、この口座番号が事件に直接関係しているかも分からないんだよ」
「そうだったの。と言うことは、暗号かどうかも分からないんだ。ただ義光君は分かる人には分かるように作られたメッセージじゃないかと思ったわけだ」
「そう言うことだ。俺も暗号とかを解くのは好きなんだけど、この3つの番号がどう関係しているのか全然分からなくて……」
「でも暗号が好きなら本とかが必要なのは気付いていたんでしょ。だとすれば何の本なのかは、それなりに考えてはいるんでしょ?」
「映画じゃないから聖書とか言うつもりはないけど、置いてあっても違和感のない本だとは思うんだが、どうだろう?」
「確かに違和感があると分かっちゃうからね。でもメッセージって伝える人に気付くようにもしないと駄目だから、義光君ならその本も分かっちゃうんじゃないの?」
 最後に微笑みながら言った小沼の言葉は、無邪気でありながらも推理力と洞察力を強く感じさせた。男女を問わずこのような話をすると自然と警戒心を張り巡らしていたが、なぜか小沼の言葉は素直に受け入れることができた。そこに小沼の魅力があり、そんな魅力に魅了されている自分を感じていた。

いいなと思ったら応援しよう!

本郷矢吹
 みなさんのサポートが活動の支えとなり、また活動を続けることができますので、どうぞよろしくお願いいたします!