見出し画像

警察の災害対応は砂上の楼閣

Column~№2
 7月25日の記録的な大雨の中、山形県警の警察官2名がパトカーで救助要請に向かう途中に命を落とした。ご冥福をお祈りしたい。
 通報に基づいて必ず現場臨場することを警察では「全件臨場」というが、これが義務付けられたのは2008年8月16日に栃木県鹿沼市内で起きた通称「鹿沼事案」がきっかけだった。鹿沼事案は市道のアンダーパスに取り残された女性が軽自動車とともに水没して亡くなった非常に痛ましい事案で、複数の110番通報に対応しきれなかったことが原因の1つだった。この時に亡くなった女性の110番で助けを求める音声を聞いたが、その恐怖に手を差し伸べられなかったのは痛恨の悔やみである。ご冥福をお祈りしたい。
 私は3年間の出向の中で危機管理担当として各種災害を経験した。そこで学んだのは二次災害で更なる被災者を出さないこと、そして発災(災害が起きること)中は何もできないことだった。
 これは救助要請を無視しても構わないということではない。だがパトカーも普通の内燃機関で動くもので特別に水害対策を講じて設計されているわけではないのだ。そして通報の現場は既に災害発生地域であるため、そこまで辿り着くことも難しく、また辿り着いても「できることがあるかも知れない」程度でしかない。この対応を巡る問題点はいろいろあるが、ここでは装備品の充実とそれを使いこなす習熟度を挙げてみたい。
 自衛隊のヘリコプターは雨天でもフライトするが、基本的に警察はフライとしない。警視庁など一部の警察ではショベルカーを保有しているが、基本的にはショベルカーも持っていない。つまり自衛隊と警察ではそれだけの差があり、都道府県によっても差がある。
 また装備品があってもそれを使いこなすためには「習熟訓練」が必要だが、ここにも問題がある。機動隊にある広域緊急援助隊のような災害に特化した訓練を平素からしている者たちと、警察署の警察官では雲泥の差がある。そのためにも訓練が重要だが訓練と言っても立て籠もり事件の訓練や商業施設での刃物使用事件の訓練など災害と無関係な訓練もあれば、警察官として求められる柔道や剣道の訓練、そして災害も地震災害対応訓練もあれば、列車事故対応訓練など広範な各種訓練が求められている。これをすべて一定のレベルで対応できるだけの習熟に達成するのは言葉で言うほど簡単ではない。
 この難題をどうすれば少しでも理想に近付けられるのかを考えるのが責任者らの仕事だと私は思っていた。

いいなと思ったら応援しよう!

本郷矢吹
 みなさんのサポートが活動の支えとなり、また活動を続けることができますので、どうぞよろしくお願いいたします!