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第7章「立証の苦悩」-4

 佐藤たちはこの酔っ払った男性が植田である可能性があるため、植田が利用する川越線指扇駅の防犯カメラの確認に向かった。
 通報のあった時間帯を考えれば最終電車を利用した可能性が高く、2人は下り線最終電車の時間帯から遡るようにして防犯カメラ映像の確認をした。指扇駅は相対式ホームと呼ばれる上下線がそれぞれ別々にホームが設けられている駅で、転落事故や乗客同士のトラブルなどが確認できるよう下り線のホームだけでも5ヵ所に防犯カメラが設置されていた。
 しかし最終電車から3本前までの乗降客を調べたが植田の姿はなかった。つまり利用駅では降りずに乗り越した可能性があった。見落としている可能性を含め、再度確認したがやはり植田の姿はなく、
「乗り越して次の駅で降りたのでしょうか?」
「橋を渡っていたことを考えれば、やはり次の南古谷で降りたんだろうな。それと班長に電話して死者の所持品の中にスイカがあれば、利用履歴を確認してもらった方がいいかもな」
 佐藤は初めからこの駅ではなく、乗り越していると考えていた。佐藤は浅見に連絡して植田の乗降履歴の調査を依頼すると次の駅に向かった。
 次の南古谷駅もホームは同じ相対式で最終電車から確認すると簡単に植田の姿が確認できた。南古谷駅の最終電車での利用客は数えられるほど少なく、植田を見つけるのに時間は掛からなかった。
「みんな下を向いていますね」
 だがどの防犯カメラを見ても下を向いて歩いているため、「植田ではないか」とは思うが決定的な映像ではなかった。𠮷良はすべての防犯カメラの映像に顔が映っていないことを不自然に感じていたが、
「基本、防犯カメラは上に付いているからな。それに酔っていたとなれば、こんな感じだろう。念のため駅から上江橋までの防犯カメラを確認するか……」
 佐藤は𠮷良のような違和感を覚えることはなかったが、確認できることは確認したいと考えていた。
「死者のスイカを確認したんだが、南古谷で降りているな」
 浅見からの連絡だった。スイカの乗降履歴はスイカさえあれば駅で確認しなくても、スマートフォンを使えば簡単に確認ができた。所持品のスイカで降車履歴を確認できれば、駅以外の防犯カメラ映像を含めて映像の確認は不要に思えた。
「南古谷で植田の映像を見つけたのですが、すべて下を向いていて本人の確認が取れていません。必要なら上江橋までの防犯カメラ映像を確認しますがどうしますか?」
「酔っている雰囲気はあるのか?」
「千鳥足ってほどではないですが、酔っている雰囲気はありますね」
「分かった。降りた記録が確認できたので大丈夫だろう。申し訳ないが小山部長と連絡を取って、赤羽に転身してもらえるか? 防犯カメラの数が多すぎて、人手が足らないみたいなんだ。そこからだと1本で行けるよな」
 報告を受けた浅見は佐藤たちに小山の支援をするよう指示した。佐藤はすぐに小山に連絡すると、
「悪いな。植田が職場を出て誰かと合流しているんだが、それが誰でその後にどこに行ったのか確認ができないんだ。これだけ店があるから俺たちだけじゃ潰し切れないんで来てもらえるか?」
「分かりました」
 佐藤はそう言うと赤羽駅に向かい1時間後には小山たちと合流した。

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本郷矢吹
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