台湾視察記録:DAY1 MaaS推進のPPP@台湾政府(高雄市の事例ヒアリング)
2024年3月6日から10日まで、東洋大学PPPスクールの現役院生・OB・客員を含む教員と台湾の公民連携取り組みに関する視察ツアーに出かけました。
6日は現地に入る移動日ということで、その日の午後から活動。
初日は台湾政府交通部(Ministry of transportation and Communication)の運輸研究所(Institute of Transportation Technology and Information System Division )の訪問からスタートです。
研究所の役割は中央政府にとって⾰新的なソリューションを⽣み出す責任を持ち、中央政府と地⽅⾃治体の架け橋としての役割を担っているとおっしゃっていました。
⾰新的なソリューション創造の一つとして、地域内移動のハードルを下げる政策を容易に進めることができる「MaaSプラットフォーム」作りを研究所として行い、そのプラットフォームを台湾の各ローカル政府が利用・活用することで各地での交通機関のシームレスな利用を実現しようという取り組みのプロセスや現状についてのお話が今回のヒアリング対象です。
ヒアリングの関心
取り組みにおける「PPP」は?というところですが、2つの視点から関心がありました。
プラットフォーム作りでは、輸送事業者それぞれの取り組みが独自に進化してきたことで「連動させる」運用を考える際に⾮常に複雑化している日本のMaaSに対して、中央政府が多様な民間と連携してプラットフォームを構築、提供するとどのような効果が発揮されるのか。地方政府の導入フェイズでの連携(地方政府と各地の民間企業の連携)で生じる効果とはどのようなものかといったあたりが興味の対象です。
プラットフォーム構築フェイズ
プラットフォーム開発プロジェクトは2017年12⽉に開始され2年間行われたそうです。プロジェクトは台湾国内外の大手IT企業(例えば主なソリューションはGoogle Map APIに基づいているなど)、地域密着IT企業、一般企業、いくつかの⼤学との連携によって進められました(*いろんな関係があるので、この記事ではざっくりとしたところまでの記述でご容赦を。ケチくさいって思わないでね)。
そうした基盤に都市間移動、交通機関間移動そして交通機関と自宅・職場のラストワンマイルをシームレスに結ぶソリューションを載せるという方向が目指されました。
一つの成果としては、中央政府が提供するプラットフォームを使い特に⼤都市圏でT-PASSの共用が開始され(2023年7⽉)台湾北部、台湾中部、台湾南部で導入されたことで都市間移動のシームレス化に貢献しているそうです。
このフェイズでの話題の中で印象に残ったことは、限られた時間で設定した効果的な目的に到達するために誰とどう組むのが良いかについて、スピードも判断基準も実に軽やかだなということでした。
プラットフォーム装着フェイズ
ちなみに台湾交通部によってもたらされたプラットフォームも、実態としては台北市などは自らのリソースでMaaS関連(例えばICカードサービスなど)で進められるという側面、政治的な側面もあり一律に全国一斉に、という訳でもなさそうですが、一つのケースとして、プラットフォームを採用した例として紹介されたのが高雄市のケースでした。
高雄市では臺鉄、MRT、LRT、バスとに加えフェリーなど多様な交通機関のシームレスな利用を実現する施策が試みられているそうです。そこに地域の民間企業が運営するタクシー交通のシームレス化を視野に入れて構築中だということです。さらに今後には到着時間や混雑具合、天気の変化と組み合わせた運行見込みなどへと拡張させたいということでした。
と…。ここまでで見ると、日本でも今や交通系カードは全国のどの事業者が発行したものでも共通で使えるようになり、決済端末もタクシーを始め多様な機関で利用可能になり、運行情報などはすでに各事業者・交通機関ごとにも実装され…と「利便性」効果においては変わりがないようにも見えます。
その意味ではそうのとおりかもしれません。
しかし、高雄市のご担当の方のお話から感じたことは、手段としての導入はもちろん意味があるが目的視点で導入を考えている、ということです。
PPPの原則と高雄市の「政策目的」
東洋大学ではPPP(公民連携)の定義を以下のように考えています。
狭義には「公共サービスの提供や地域経済の再生など何らかの政策目的を持つ事業が実施されるにあたって、官(地方自治体、国、公的機関等)と民(民間企業、NPO、市民等)が目的決定、施設建設・所有、事業運営、資金調達など何らかの役割を分担して行うこと。その際、①リスクとリターンの設計②契約によるガバナンスの2つの原則が用いられていること」
広義には「何らかの政策目的を持つ事業の社会的な費用対効果の計測、および、もっとも高い官、民、市民の役割分担を検討すること」としています。
実は公民連携によるMaaSの話でも手段としての利便性やそれによって生じる経済効果の視点ももちろん大事ですが、「政策目的」の実現が軸に、起点になっているか?が大事だと思います。
高雄市が交通部のプラットフォームを交通サービス基盤として採用に至ったのには明確な「目的」があったからなのではないかと思います。
台湾の交通ラッシュといえばスクーターという光景を頭に思い浮かべる人は少なくないと思います。高雄市でも同様だそうです。実はラッシュアワーに発生する交通事故の60%以上がスクーター関連なのだそうです。加えて多くの⼤気汚染という別の問題も発生します(余談ですが…。滞在した台北では電動スクーターを多く見かけました。これも大気汚染を減らすという適応策の一つかもしれませんね)。
つまり、高雄市が交通部プラットフォームを基盤にMaaSソリューション開発実装する大きな⽬的は、ソリューション提供で公共交通機関サービスの利⽤を促進することで高雄市民の安全と環境問題対応という複数の地域社会課題を同時に解決することだとわかります。
便利だから、得があるからといった理由はそれはそれでわかりやすいわけだが、政府部門が民間の知恵を用いや賛同を集めながら進めるには地域課題の解消という「政策目的を持つ事業」であることを明示することは重要であると改めて思いました。
シリーズは視察DAY2「台中駅PPP事例視察と財務省PPP当局&台北市政府メンバーとのディスカション」に続く。