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PPP的関心2025 / 既存のやり方・仕組みを切り替えるタイミングと勇気

私の知人が関わる企業も参画する取り組み記事を彼のSNS発信で知りました。以下のリンクにある「北国銀行、基幹システム「脱COBOL」で」という記事です。銀行の基幹システムとはどんな範囲にどれほど影響が及ぶものなのかやコンピュータ言語について詳しくない自分でも、記事に書かれた取り組みの重要性やそれがいかに意欲的な挑戦であるかの想像はつきます。

基幹システム脱COBOLの意味

記事では冒頭に「COBOL(コボル)」から他の言語に変更すると発表」とコンピュータ言語について紹介されています。後で教えてもらったことを記しますが、言語問題も大きなカギになっているようです。
記事では次に「勘定系システムのマルチクラウド化と並行して進め」と金融機関にとって最も重要なシステムに手を加え「単にマルチクラウド化するだけでなく、システム自体を近代化する」という同社社長の言葉にもあるように事業機会の確保や顧客サービスの向上を試みる際の機動力や拡張性を高めるという取り組みであることについても書かれています。

勘定系システムの近代化は北国FHDが23年に公表した「次世代地域デジタルプラットフォーム」の中核をなす。取引先はプラットフォームを利用して、自社のサービスに決済や融資といった機能を組み込めるようになる。杖村社長は「これからの時代はセキュリティを確保しつつ、取引先企業とつながらなければならない」と話した。
例えば、クラウド会計ソフトを使っている企業と北国FHDの基盤を連携させれば会計ソフトの情報を基に人を介さずに融資の自動審査もできるようになる。

日経新聞 記事より

切り替えのタイミングと勇気

知人の解説で理解できたこと。金融機関にとってコアシステムである勘定系システムはCOBOLという言語で構築されている場合が多いのだそうです。COBOLというコンピュータ言語は新たなコンピュータ言語の登場で新規学習者が少なく、さらに元々COBOLを使ってシステムを構築・保守支援していた世代が現役を引退しはじめているといった背景からエンジニア不足が生じ、効率的な保守活動や機能の拡張などの場面でデジタルサービス向上の障害になりつつあるというのです。このままの仕組みを基盤にすることはビジネスの機動力の面でも運営コストの面でも不利益を生じる可能性があるということだとわかります。
一方でコアシステムである以上、相応に投入リソースや工数を確保する必要があり当然のように開発コストも上昇することが容易に予想されます。その点で経営者にとってはそのCOBOLを使って構築されたシステムの廃棄を決断しにくいという側面もあるのだそうです。
にわか仕込みの情報であはりますが、このような背景の中で基幹システムを刷新するという判断は、ライフサイクルコストだけの利益ではないある意味でとても勇気ある決断だと素人ながらにも思います。

PPP的関心は「進取の姿勢」

内情にも精通せず専門的な知識も乏しい私がこの記事で何を感じたか。この話を聞いて感じたことは、従来の考え方にとらわれず、積極的に新しい物事に取り組もうとする「進取の姿勢」が明確であるということです。
金融機関にとっては決済など今現在提供している金融サービスに与える影響が「0ではない」という不確実性を許容することは相当難しい判断だと思いますが、それを乗り越えたポイントとして「進取の姿勢」が強く印象に残りました。

もともと北國銀行は金融業界、特に地方銀行のDX施策推進で先進的な企業として注目を集める企業でした(金融業界の門外漢の私でも知っているほど)。
その根底にはホームページで書かれているように「DXを進め、そこで生まれた資源を生かして、新たな価値やサービスを創出する」という考え方があることがわかります。

「北國FHDが考える「地域デジタル化」とは、ペーパーレス、キャッシュレスを活用した地域社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
今後、地方の人口は減少に転じ深刻な働き手不足となり、地域が消滅する危機すらある状況です。
そうなる前に、地域全体でDXを進め、そこで生まれた資源を生かして、新たな価値やサービスを創出する「持続可能な地域社会」を目指します。

例えば、同行は顧客のクレジットカードやQRコード決済の手数料負担が高いという声を受け、自ら手数料を最小限におさえられる決済手段を提供できるか?について、2022年頃からブロックチェーンを使ったサービス開発の検討をしていたそうです。
直近の具体的なサービスとしても、すでに提供していたブロックチェーンを活用したデジタル地域通貨サービス(トチツーカ)提供に加え、新たに銀行が主体となって発行する日本初の預金型ステーブルコイン「トチカ」のサービス提供も始めたそうです。(預金型ステーブルコインとは

行政は「進取の姿勢」を持てるか

今回の話題から自分の領域に当てはめて考えたのは公的サービスの提供者である行政機関が「進取の姿勢」を持てるか?でした。

税として預かった原資を使い公的サービスの提供を担う機関として、出来るだけ広範に抜け漏れなく再配分を考えることはもちろん大事ですが、一方で市民ニーズは多様化細分化するなど変化し続けるしサービス提供を効果的・効率的に行うためのツールや仕組みも進化し続けます。
そのような変化に出来るだけ機敏に詳細に対応しようと考えた時に、新しいツールやシステムを取り入れることが有効な場合が多いと思います。
今までの取り組み方をいつ切り替えるかについて、そもそも新しいツールやシステムに関する知見のキャッチアップをして導入したらどうなるかを想定した上で、どんな状況状態になったらトリガーを引くかを決める…といったことを日常的に議論しておくべきではないかと思います。

行政の進取の姿勢へのヒント。優先順位発想

市民ニーズが多様化細分化する時代にどう対応するか。その鍵となる視点の一つは「優先順位」付けだと思います。
ともすると「出来るだけ広範に抜け漏れなく再配分を考える」ことを違えることはまずいことだ考えがちですが全てを自分でやるのか?を考えざるを得ない時代に入っています。
(モデル的に考えるとして)例えば一つやるのに10万円かかる行政施策が10件ある自治体が、税収低下や扶助費の圧力など予算制約から80万円の予算しか割けなくなった時に、出来るだけ広範に抜け漏れなく再配分を考えるとそれぞれに8万円づつ振り分けて10件を実施しようとするでしょう。となると施策によって生み出されるサービスは同じように8掛けかというとそもそも必要十分な予算を投じないと期待する成果を実現しない施策もあり得ます。つまりモノによっては投入を減らすことは効果を生まない投資にもなり得るということであり一律の均等割的な発想では対処できない可能性があるということです。言い換えれば「公的サービス提供の仕分け」「優先順位付け」が必要かつ重要になってくるのです。

行政の進取の姿勢へのヒント。サービスプロバイダーをマネジメントする発想

では仕分けたとして、仕分けから外れた公的サービス提供はやらなくて良いのか?・・・このような問いの前提には全ての公的サービスは行政が主体として行うという前提があります。
何度も書いているように市民ニーズが多様化細分化する時代において、もし最適なサービス提供に適合した技術やノウハウを用いた提供経験を行政よりも有する主体がいたとしたら、その主体が公的サービス提供を実施をした方が社会全体の効率は高まります。これこそ公民連携的な手法を用いる動機であり出発点となる発想です。
随分前ですが、以下の私のnoteでも「サービスプロバイダー(公的サービスを自ら提供する組織)か、プロバイダーマネジャー(公的サービスを提供する民間をマネジメントする役割を持つ組織)に」ということを書きました。

今回の記事は、その発想を持つ時代がいよいよ本格的に到来しているのだと気付かされるものでした。

行政にとっても「能率・効率・効果」を高めるチャンス
地域企業とともにスモールコンセッションを企画、実行することは行政機関にとっても公的サービス提供の能率、効率、効果を高めることにつながると思います。
スモールコンセッション方式の導入範囲をどこまで拡大するかを検討することは、言い換えれば、行政機関が「サービスプロバイダー(公的サービスを自ら提供する組織)か、プロバイダーマネジャー(公的サービスを提供する民間をマネジメントする役割を持つ組織)か、どちらになるか?を選ぶことでもあると思います。プロバイダーマネジメントに徹することは、他組織の力を借りる=投入を小さくして、優れた運営をしてもらう=成果を大きくすることであり、すなわち効率(生産性)アップに直結します。
「自分が今やっていることを、自分よりも能率・効率・効果を高めてくれる人にやってもらう」という謙虚でかつ大らかな発想

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