PPP的関心【新・建設業&新しい不動産業の実践企業@三島市 視察メモ】
以前の記事でも書いたように、これからの建設業が目指す姿として、自社が拠点とする地域の都市経営課題に向き合い、地域に根ざしながら課題解決につながる「事業」を自ら企画し、創り出し、取り組むことができる創注型の建設業を目指すことで自らの持続可能性も高める、というのが「新・建設業」という言葉に込めた私の考えです。
新・建設業の考え方は不動産業にも通じると思います。
不動産事業者の事業領域が開発事業、取引業、管理業と違っていても、共通しているのは収益が地域の価値(市場価値を形成する利便性、住みやすさ、アメニティの充実、居心地の良さなど様々な暮らしにもたらす価値)に従うということです。地域の価値は大雑把にいえばヒト・モノ・カネが集まり、動くことで生じます。不動産業の持続可能性が引き続き地域の価値の高さを前提としたものであるならば、自ら持続可能性を高め事業基盤を強固なものにするためにも「誰かが与えてくれた価値」に乗じるだけでなく、「地域の価値創造」に加わり、時には自ら企て実践する、そんな「新しい不動産業」に向かっていくべきだと考えます。
今回は、「新・建設業」、「新しい不動産業」の取り組みを実践する三島市の加和太建設さまの取り組みの視察を通じて得た情報、思ったことについて自分自身のメモとして書いておきたいと思います。
公共事業の新たな形、指定管理やPFIでも実績を持つ
PPP 的手法を用いたまちづくりにおいて、運営まで含めた施設整備(新設、再編) PFI 事業や指定管理事業の担い手として地元の建設会社や不動産会社への期待は大きいと思います。
しかし、地域によっては、その地域のトップゼネコンですら運用事業の利益獲得が長期にわたり手間が必要なことや人材不足を理由に、建設で収益だけ獲得できれば良いとして PFI 事業に参入しない場合もあると聞きます。これはまさに「与えられた」ビジネスチャンスだけを待っているだけの姿です。
加和太建設様では、与えられたチャンスを待つだけでなく( もちろん土木や建設をはじめとする従来型の公共事業受注もされていますが )、数年前からPFI 事業にも参入、指定管理受託など「運営」を自社事業に取り入れることによって地域活性化に貢献されています。
PFI取り組み事例:道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」
指定管理受託事例:桃沢野外活動センター
視察の中で伺った中で印象に残った話があります。
「少年自然の家」は、一般的な地元(長泉町)の人々にとって「小学生の時に(キャンプ野外学習などで)一度行ったことがあるだけの施設」、「普段はどうなっているのか関心の薄い施設」だったのが、同社が運営を受託して以降、地元の小学生からの評価が「いま一番楽しい場所」「何回も行きたい場所」に変わったのだそうです。
コア施設が同じでも運営の力で地域住民にとって大切な場所、しかも収益を獲得する事業アセットに変えることができた好例だと思いました。
廃園となった幼稚園園舎を再生させ、地域の未来をつくる人が育つ場所へ
以下の取り組みは、既存施設の再活用事業PFI事業、指定管理ではありませんが、こちらも「パブリックマインド = 地域や地域の人の活動に役に立つようなことをやろうとする気持ち )」を持った同社ならではの取り組みだと思いました。
当初の行政の思惑(廃園となった幼稚園施設を取り壊し、市役所周辺に点在する駐車場の不便さ解消と行政費用圧縮を目的として新たな駐車場に転換 )を「セーブできる費用相当で同社が借り上げ、耐震補強等も実施する」というリスクをとって行政と調整、幼稚園施設を残した上で、そこを拠点としてコーワーキング、学生向けラボ、地産商品の販売ショップやキッチンカーの導入等で新たなまちなか拠点を創造したのが「みしま未来研究所」です。
自らリスクをとって、行政にとっても、その場所を残したい市民にとってもwin -win を実現した取り組みは、単体での収益化に多少の時間がかかっても地域密着の事業を展開する企業にとっては認知や直接的なビジネスチャンスという「利」だけではなく、「信(信頼)」の獲得につながる活動だと思います。
「人材育成と人材交流」を起点に、地域に新たな経済を起こす
上記以外にもさまざまな地域貢献(120台分40ヶ所のサイクルステーションを同社の費用で整備し自治体に提供することで、外来者の市内での回遊性を高める。とか)に取り組んでいる同社ですが、地域に既にいる、或いはこれから入ってくる「人材」に着目した活動も注目でした。
例えば、元々同社が開発した商業施設を「 LtG Startup Studio 」 という施設にコンバージョンし、スタートアップ支援拠点として(新たなビジネス創造のための)知見、環境、(起業や事業拡大の)資金(相談機会)を提供する場の運営を行なっています。
また、同社の社員が「街で人とつながる」ための拠点(かどくちオフィス、HUBオフィス)を「まちなか」に点在させているのですが、その拠点となるスペースは、同社が市内中心部で購入した空き空間(実に17ヶ所)の一部を活用したもので、まさにリスクをとって地域に貢献、その結果地域全体が活性化し、その過程で将来的なリターンを目論む取り組みです。
こうした一連の取り組みは、いわば「旦那衆」的な取り組みを体現している企業活動でもあると思いました。
*旦那衆:文化の保存や地域の困り事の解決、まちおこしに私財を投じて地域を守り育てるという気概を持つような人々を指す
三島市の環境(都市圏へのアクセス、気候や空間的な居心地の良さなど)を活かし、ここに拠点を構えるデジタル/ クリエイティブ人材、企業を誘致し、そのような人材を地域の企業がつながることで、地域に新たな経済を起こす起点となる、こんな目論見を見事に「実践」されています。
まちなかの空き物件を、交流人口を生み出すスモールオフィスへ。まちなかオフィスプロジェクト
三島市から世界へ、起業からまちの元気を生み出す場所。LtG Startup Studio
新・建設業、新しい不動産業を体現する企業を増やす
もっぱら個人的な「締め」になってしまいますが、今回の加和太建設さんのように未来の稼ぎ方を多様化・進化させながら、地域の課題解決そして地域の未来創造に貢献することを「事業として」に取り組む建設業、不動産業が増えると街(そこにいる人)が元気になることを改めて実感できました。
今後もこうした建設、不動産企業を増やすことをテーマに企業、地域、行政のみなさまに関わり、応援をしていきたいと思います。