PPP的関心【すでに起こった未来。人口減対策先送り30年のツケ】
保育所に入りたくても入れない待機児童は後を絶たない。2021年度は特定園の希望者など潜在的な待機も含めておよそ7万人に上った。にもかかわらず、厚生労働省は今年度から保育所の統廃合などを議論する検討会を始めている。
地域の社会構造の変化は、公共サービス提供のあり方、方法についてPPP的な取り組みを含めた維持、更新、変更など検討する上で、社会構造の変化は大きな要素となります。記事には「少子化の根本的な原因究明や解消に向けた道筋に触れられて」こなかったとして、「30年のツケ」というタイトルがつけられています。
30年のツケの意味。「すでに起こった未来」
ドラッガーはその著書で「未来のことは予測できないけれども、すでに起こってしまった未来を探せ」と伝えています。
「すでに起こった未来は、体系的に見つけることができる」として、人口構造、知識、他産業・他国・他市場、産業構造、組織内部という5つの領域の変化からそれを見出せるとしています。とりわけ人口や世帯の構造については、「人口の変化は、労働力、市場、社会、経済にとって最も基本となる動きで、"すでに起こった"人口の変化は逆転しない。しかも、その変化は早くその影響を現す」として、数年後、数十年後の市場に大きな影響を及ぼすと教えています。言い換えれば、将来の社会の変化の元になる「今」の社会、暮らしを丁寧に観察することが大事だということです。
待機児童の発生と保育所の経営が成立しないという問題が同時に起こっている状況は、もしかすると数年前、数十年前の社会で何が起こりつつあり、どのようなことが求められてつつあるのかに関する観察が不足していたのかもしれません。
社会、暮らしは丁寧に観察されてきたか?
待機児童が減らない地域もある一方で、保育所の統廃合の検討をする必要がある地域もある、まだらな状況が生じるのはなぜか。
例えば、特定エリアでの住宅供給の集中による急激な社会増が生じたり、世代循環の中で生じる増減サイクルで、ある世代の人口が集中的に増伸するような状況に対して、社会増のその先に予見される施設整備の計画が十分であったか、長期的な視点で地域の施設整備、維持が行われてきたか、など人口変化がもたらす変化を見越した計画が十分だったか?という指摘があると思います。
あるいは、社会構造の変化には「働き方」を含む暮らし方の変化もあり、子育てと就業が分業で行われてきた子育て家庭の暮らし方が、両親とも働きながら子育てをするような暮らし方に変わってきたような変化の"兆し"を観察し、大きな変化となって現れる予見を持つという態度が十分であったか、といった点でも今の結果を変えることができる可能性、余地があったのではないかと思います。
今目の前に見えている経済優先の視点や、これまでの暮らし方はそんなに簡単に変わらない、そのまま続くはずという思い込みという話で、丁寧な観察により変化を察知し、変化を受け止めることはもっとできたかもしれません。
保育所の問題だけではない。インフラも同じ
人口減少や高齢化といった社会構造の変化は、記事にある保育所の問題だけにとどまらず、すでにさまざまな構造的問題として顕在化しています。
例えば、世帯数の減少が続く地域に敷設されてきた上下水道インフラの維持管理をこれからどうするか、小学校や中学校の統廃合・廃校跡の校舎利活用をどうするか、道路や橋梁の維持管理なども記事にある保育所と同様です。いずれも、「いま」目の前で増え続ける人口や世帯とその人々が求めているものがあればまずは提供する、という成長時代の恩恵を生かした方針で都市化が進んできたわけです。しかし、すでに人口や世帯の伸びは止まり、数量的な成長を前提とした施策だけでは十分といえず、さらにこれまで持ってしまったインフラを最適配分し直して、どのように使っていくかを考えなくてはなりません。
すでに持ってしまったストック。インフラ。これらの「新たな利活用」や「将来の転用を見据えた設置」を考える際には「今より"さらに"先」を見越すための社会観察が欠かせないということです。