PPP的関心【『脱「日本版PFI」のススメ 急がれるサービス調達型への転換』を読んで】
この活動も含めて意図的に発信を心がけていますが、その前提はインプットが必須です。これには現場を見聞したり人にあってお話を聞いたりするだけではなく、もちろん書籍やさまざまな媒体からの情報収集もあります。
ということで、今回は最近読んだ『脱「日本版PFI」のススメ』から自分メモを少しばかりシェアしようと思います。
写真はPPP手法で整備されたメルボルン王立病院(2018年訪問,筆者撮影)
『脱「日本版PFI」のススメ』の紹介
著者の熊谷さんの書籍を私も初めて手に取りました。資料提示や書き振り、章立ての展開のどれも丁寧で、専門分野の書籍ですがとても読み進めやすい一冊でした。一方で内容は日本国内のPFI事業の問題点と考える事項について施設整備(に偏重した)型PFIから英国で制度起源となった考え方を踏まえた「サービス調達型PFI」へと転換をすべきであると明快に切り込んでいます。
気になった箇所のメモ
これ以外にも書籍の中では、PFI方式はそもそも長期債務負担行為を伴う時点で財政の健全化に寄与しないという指摘やPFI法は施設整備費用の割賦払いを認めてしまった側面がある、という指摘もあるのですが、個人的に特に関心を持った点はVFM( Value for Money )の達成(創出、実現)原理と社会的な付加価値の関係です。
元々自分も、行政サービス提供の効率化=生産性向上において、生産性=成果 ÷ 投入の算式において投入を小さくすることに終始すると結果的に成果=行政サービスの提供品質が低下してしまい負のスパイラルに陥るという考えを持っていましたので、とても共感しました。
目的(未来につながる自治体経営)と手段(PFI実施)の不整合はないか
以前、令和4年度のPPP/PFI推進アクションプランの中身について触れた記事を書きました。
そこでは
・小規模自治体におけるPPP/PFI事業方式の優先検討規定の策定の後押し
・新たな分野、領域におけるコンセッション等の拡大方針
などが示されていました。
これが引き金になっているのか、最近私の周りでもこれまで実施実績だけでなく検討の経験もない(少ない)自治体から「PFI事業の検討したい」「いま目前に控えている事業をPFI方式で実施できないか?という相談をしたい」といった話がちらほら耳にすることがあります。
ここで注意したいことは、PFI事業=自治体が公共施設整備をするための方式の一つとして民間活力を導入する事業は、何でもいいからやれば良いという趣旨の取り組みでは決してないということです。
例えば、そもそも公共施設の維持管理費用に当て込もうとしている民間収益事業が成立しそうもないのにPFIを優先するとか、或いはそもそもすでに過剰な公共施設を抱えている中でさらに自治体が公共施設を整備・保有する必要があるのかといった、施設整備ありきの発想で自治体の地域経営にとっては不要な(あるいは将来の負担になる)施設整備につながりはしないかという視点を持つべきだということです。
PPPは行政サービス「市場」の民間開放でもある
先日基調講演を承った横浜PPPプラットフォームのセミナーでも民間開放の話をしました。
という前提をもとにすると、先ほどの引用メモにあったような「VFMのつながるコスト削減は民間ノウハウを利用した事業者の業務効率化によって達成される…事業者の売り上げの減少につながり、結果的に所得分配の原資となる利益の縮小にもつながる。」とすれば、そのような市場に喜んで参入する民間は少ない(というかほぼないのでは)とも思います。
地域経営の将来を考えれば民間活力をフルに引き出すべきであり、そうした考えにたてば、施設を建てるためのPFIという視点からいったん目線を上げて地域住民にとって必要なサービスの優先順位を考え、その目的を効果的かつ効率的に実現するために誰が何をどのように動けば良いのかを考えた結果がPFI方式の採用であれば、力のある民間も儲かり、地域市民にも良いサービスが提供できる座組みとして導入・実施すべきです。
久しぶりに頭の整理ができた書籍でした。