PPP的関心【まちを知る。「日本の都市特性評価」の紹介】
東洋大学PPPスクールで担当する講義(まちづくりビジネス論)中のテーマの一つに「考現学」という学問の紹介があります。
街、街中の建物をはじめ空間や場の使われ方を考える際、計画時点と実際に提供された時点のあいだで地域住民や来街者(使い手)、流行や習慣、風俗(使い方)に変化が生じれば、「当初想定した使われ方がされない」ことも十分起こり得る話です。
それゆえ、空間や場の使われ方の将来計画を立てる際には、「今の」人々の行動や意識の変化という「事実」から近未来の世の中の潮流を読み解く必要があると思います。
そのような問題意識から、PPPビジネスの講義テーマの一つとして考現学を取り上げているのですが、それは考現学が「未来を考える立場にたって街上において現代人の生活ぶりをあたかも動物の行動や習性に着目するかのように観察、記録をしてデータを集め、統計的手法により現代生活様相の特色を明らかにする」ものであること、そして、それは現代でも都市を舞台にしたフィールドワークによるマーケティング手法として用いられる「よく知る」ための手法と考えられるからなのです。
PPP的な取り組みにおける「よく知る必要性」
よく知るための手法と書きましたが、そもそもなぜPPP的な取り組みをする上で「よく知る」ことが必要なのでしょうか。
より効果的な目的設定をするために必要
PPP 的関心の記事では何度も書いていますが、東洋大学 PPP研究センターにではPPP の定義を「公共サービス提供や地域経済の再生など、何らかの政策目的を持つ事業が実施されるにあたり、官( 地方自治体、国、公的機関等 )と 民( 民間企業、NPO、市民等 )が目的決定、施設建設・所有、事業運営、資金調達など何らかの役割を分担して行うこと」と示しています。
こうした地域経済や地域生活の活性化や再生という「政策目的」を設定するにあたって施策が効果的であるためには、当たり前ですが、今何が起こっていて、なぜそうなっているのかを正しく理解することが必要かつ重要です。因果関係の「原因」を正しく理解しなければ「結果」は変わりません。
地域課題の複雑化を理解するために必要
以前のPPP的関心の記事(以下リンク参照)でも書きましたが、政策目的の対象となる「解決すべき地域社会の課題」を見ると、個別の一つ一つの事象は実は関係しあっていて影響範囲は大きくなり複雑化しています(例。以前の記事の糸島の例では交通弱者支援+観光利便性+事業者の持続可能性など別現象であるが根底の要因は共通課題は高齢化…といった具合に)。
ここでもやはり、その事象がなぜ起こっているのか、他のどのような事実が関係しているのかを深く、正しく理解すべきです。
こうした必要性を踏まえ、地域課題の解決に向け「可能性」を探り出すためには、まず自分の足で対象の場を歩き、目と耳で事実を捉えることが不可欠です。一方で、自分の目と耳だけでは先入観というバイアスがかかる可能性もあります。それを補うのがフィールドワーク以外のやり方によるファクト収集です。
まちの「事実」を把握する
ファクトの把握にもさまざまな手法がありますが、統計データやさまざまなアンケート結果にあたることは有効だと思います。
例えば、政府統計や自治体統計といった一次情報(情報源となる独自の情報や公的機関が発表する情報)に直接あたることは有効な手段だと思います。
「日本の都市特性評価2021」
今回は、一次情報ではないですが、さまざまにある統計データや調査資料を「整理して把握する」うえでとても参考になるという観点から「日本の都市特性評価2021(森財団都市戦略研究所)」を紹介したいと思います。
調査概要
この調査は「国勢調査結果」「経済センサス」などの統計資料やアンケート調査などにより収集された定性・定量データから6分野、26指標グループ、その26指標グループを構成する86の指標が示され、その結果をスコア化することで評価されています。
*概要版ダウンロード ↓
https://mori-m-foundation.or.jp/pdf/jpc2021_summary.pdf
対象は、国内の138 都市(選定基準は 1. 政令指定都市 2. 都道府県庁所在地(政令指定都市を除く) 3. 人口17 万人以上の都市)と東京23区です。
書くまでもありませんが、もちろんこれ「だけ」が万能、有効という意味で本調査を引用しているわけではありません。
しかし、統計調査やアンケート調査が多様で広範な分野(経済・ビジネス、研究・開発、文化・交流、生活・居住、環境、アクセス)に整理・整頓されそれぞれ指標化された情報からは、さまざまな「気づき」を与えられそうだと思いました。
蛇足ですが。
全国1700以上ある基礎自治体のうち17万人以上と括ると全体の10%にも満たない( 138団体 )という事実に改めて気付かされました。
地域の活性化、地域経済の再生などの都市経営的な課題設定、解決策の模索は、これよりも人口規模で小規模な自治体についてこそ必要になってくると思います。紹介した調査で使われた視点、指標の整理のしかたを参考にして地域の理解を深めることは有用ではないかと思います。
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