PPP的関心2023#05【大企業が手掛ける細やかなPPP・おひさまテラス】
先日、総武線の特急「わかしお」に初めて乗りました。銚子方面に出かける機会もなかなか無かったので良い機会でした。
今回初めて特急に乗って移動した行き先は旭駅(千葉県旭市)。2022年4月にオープンした多世代交流施設「おひさまテラス」への訪問が目的でした。
今回はおひさまテラスの視察で得た学びや感想などを書こうと思います。
写真はおひさまテラスの様子(筆者撮影)
おひさまテラスについて
平成17年に1市3町の合併で誕生した旭市では「生涯活躍のまち・あさひ形成事業」として「旭市にしかない・旭市ならではの“魅力とライフスタイル”の創出」から新しいまちづくりを進めているそうです。今回視察したおひさまテラスはこの事業の核となる施設です。
本を読んだり、美味しいごはんを食べたり、料理やものづくりを楽しんだり、思い切り遊んでみたり、ダンスや音楽や仕事に打ち込んだりできる様々なスペースを持つ多世代交流施設です。
おひさまテラスの現在
2022年4月のオープン以来、同年12月末までの累計来館者はすでに21万人を超えているそうです。出だしこそ場の「使い方をイメージしてもらう」ためのイベントを繰り返したが、今では狙い通り、すでに「多様性を受け入れ、新たな可能性を発見できる。ひとりひとりの居場所となり、ひとりひとりが輝ける場所」になりつつあるようです。
イベントというと初めてそこで会った人とも交わりましょう!的な無理矢理な空気すら思い浮かべそうですが、ここでは【そこにいることが許される、それ(居場所が許される)だけでも「交流」と言って良い】という考え方でゆっくりと、今風で言えばナッジ(ちょっとした表現や伝え方の工夫で人々の自発的な行動を促す)的な取り組みが積み重なった。その結果、ショッピングセンター内のシェアキッチンで月に1回2回だけど自分のお店を出す人が登場したりYoutubeラジオのDJとして(おひさまテラスの)案内役になった女の子が登場したり
…といった現象が起こっているそうです。
おひさまテラス視察で見聞した中で注目したポイント
市役所のビジョンと大企業の中の志
市役所ホームページにある「これまでの主な取り組み」をみても分かる通りこのプロジェクトは長い時間をかけてじっくりと作られています。しかし単に時間をかけただけではなく「旭市にしかないものを作る」、「こういう街を創るのだ」という明確なビジョンを常に中心に据えながら、一方で具体化の過程では外野勢力と渡り合いながら市と事業予定者が相互に協力する体制を明確にする「基本協定」を結んで事業を進めるなど民間のアイデアや意見を実に柔軟に取り入れる姿勢を持っていたこと。
同時に民間サイドでも2019年に優秀提案者に選定された大企業であるイオンタウンが自社のアイデアやマンパワーだけにとらわれず、協力者となる地元事業者を発掘しプロジェクトに巻き込み、市役所と時に対立しながらも同じ目的を目指し是々非々で伴走を続けたこと。
おひさまテラスプロジェクトが注目を集めプロジェクトとなった背景には行政と民間の双方にこのような姿勢があったからだと思います。
創った仏に魂を入れる?。一般社団法人と多様な連携
このプロジェクトで市役所は事業公募の後にまず「優秀提案」を決定した上で事業計画を承認しています。これはうまいやり方だと思いました。
つまり計画(案)の優秀性を認めることで、誰がの前に「何を」を関係者の共通認識とすることで民間の提案を忠実に受け入れながら施設を整備する前提が整うからです。こうした丁寧なプロセスのデザインのおかげで良い施設ができたのだと思います。
*余談ですが、先日もPPP的関心で取り上げた長野市のDB+指定管理方式を思い出しました。使う人のアイデアを活かし「顧客のいない公共事業を顧客を創造する公共事業に変えた」事例にも 通じるところだと思います。
さて、ハードとしては大変魅力的な場所が出来上がったわけですが、仏を創って魂入れずとらないことが大切です。
先ほども紹介した「基本協定」の傘下企業が主体となって、一般社団法人が設立されています。いかに大手企業といえどもその単独の考えだけでことを進めたり、あるいは地元企業も含めた集まりを作っても単なる「寄せ集め」では「良いまち」にならないと思います。そうした懸念を排除するために"連携"してまちをよくしよう…そんな思いを口約束ではなく組織化して事業として取り組むという意図の表れだそうです。現在、一般社団法人としての中心的な活動はエリアビジョン策定なのそうです。具体的には市役所が役所の言葉で書く総合計画ではなく「自分たちが考える将来像」を作っていくことで、市民が共通言語をもって自分たちの暮らしを語れるようになるようになる状態を目指しているそうです。
先のエリアビジョン策定やさらに取り組みの広報・PRにあたっては市役所、商工会、物産協会、千葉工大学、道の駅、JCなど周辺の団体との連携も推進されています。こうしたこともおひさまテラスという場所を当初の目論以上の場にする、まさに魂を入れる活動だと思いました。
官民連携による「新たな」まちづくり
こちらも参考に。イオンタウン社のホームページには「新たなまちづくり」という表現で紹介されています。
ここにも書かれていますが、隣接地に特別養護老人ホームの開設予定があるそうです。
実はこれも単なる施設の寄せ集めではなく、シニアの得意技を活かして自分たちの食事を調理し余剰分は販売したりといったようにショッピングモールに開く施設となっているだけでなく、介護を受ける人と家族を繋ぐ場所にもなっているそうです。まさにこの場所を「多様性を受け入れ、新たな可能性を発見できる。ひとりひとりの居場所となり、ひとりひとりが輝ける場所」にしてゆくのに貢献しているといえます。
その意味で「まち」を創っていると言える環境がそこにあります。
まだまだ色々見聞したことがあるのですが、まずは体感してみるのが良いと思います。「大企業」が手がける「細やかな」PPP取り組みの好例であることが理解できると思います。