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PPP的関心【アベイラビリティ・ペイメント方式って?】

「PPP的関心」でも何度か触れてきたように、PPPとは公益性を持つ事業を実施する際に、その効果(市民へのサービス品質向上)と効率(行政コストの効率配分、最小化)を同時に高める取組で、その際、(1)官民間でリスクとリターンの適正な設計がされている(2)契約によるガバナンスがなされるという二つの原則が用いられた行政と民間の連携です。

ところで、PPP/PFIによる公的サービスの提供・充実や公共施設整備は、民間事業者が公的サービスの提供(運営)で生じるキャッシュフローから投資を回収することで成立します。それゆえ、道路や学校などキャッシュフローを生じない公共施設の整備についてはPPP / PFIによるサービス提供、施設整備を行いにくかったのですが、そうした課題への対処方針として、2020(令和2)年「PPP/PFI推進アクションプラン(令和2年改定版)」内の「PPP/PFIの一層の促進に向けた制度面の見直し」という項目において「キャッシュフローを生み出しにくいインフラ(道路や学校等の公共建築物等)についても積極的にPPP/PFIを推進するため、モデル事業実施やガイドライン事例集等の策定などの導入支援を行う」ことを示しました。

PPP/PFI推進アクションプラン(令和3年改定版)」でも前年に引き続き示された「指標連動方式」の推進

2020(令和2)年の改定版で示された「キャッシュフローを生み出しにくいインフラ(道路や学校等)についても積極的にPPP/PFIを推進する」という方針は、令和3年改定(以下リンク参照)にも引き継がれました。
具体的には「公共サービスの質の維持等に十分な配慮を行いつつ、包括的民間委託(受託した民間事業者が創意工夫やノウハウの活用により効率的・効果的に運営できるよう、複数の業務や施設を包括的に委託すること)や指標連動方式を含むPPP/PFIの導入を推進する」と記述されています。

参考)PPP/PFI推進アクションプラン(令和3年改定版)概要

指標連動方式(アベイラビリティ・ペイメント方式)とは

指標連動方式(アベイラビリティ・ペイメント方式)とは何か。
指標連動方式というのは「公共施設等の管理者等(PFI法第2条3項)が主に利用料金の生じないインフラに関して実施させるPFI契約等(包括的民間委託契約等を含む)のうち、インフラの機能や持続性に対応した指標を設定し、民間事業者に委託等した際に支払う額等の一部又は全部が、当該指標の達成状況に応じて決まる方式(国土交通省資料  参照)」です。

#日経COMEMO #NIKKEI

アベイラビリティ・ペイメント方式の「アベイラブル」とは「利用可能(な状態である)」という意味で、そこから、運営を任された民間事業者により設備や施設が適切に維持管理されて(当初目的を果たす)利用可能な状態が維持されれば運営事業者に一定の支払いがなされる。さらに当初に合意した(利用に関する)評価基準よりも高い評価を受ければ一定の支払いにボーナスが加算され、逆に未達であればペナルティー(支払いの減額)が科せられる、というものです。

指標連動方式採用の本質は、官から民へのリスク移転と民のパフォーマンスに応じた対価

ところで、「運営を任された民間事業者により設備や施設が適切に維持管理されて(当初目的を果たす)利用可能な状態が維持される」のは、一見すると当たり前のことに思われます。
しかし、委託方式が一般的に採用されるキャッシュフローが生じない施設の維持管理業務では、仮に対象施設・設備が利用不能な状態になったとしても委託料が払われてしまうという点で、官側に「リスク」が残ったままの契約と考えられます。

その点、指標連動方式は「利用可能な状態の維持」という成果基準が定めされ、それを基準にボーナスとペナルティが設定されることから、民間側にリスク(不作為などがあれば受け取る委託料が減る)が移転されることになります。
もちろん、官から民への一方的なリスク移転(やって当たり前という契約)のために指標連動方式(アベイラビリティ・ペイメント方式)を採用するのではなく、受託した民間事業者が運営上の創意工夫や業務範囲の拡大による規模の利益の獲得などを通じてボーナスを獲得する余地を大きくするなど、受託した民間事業者が自ら高いパフォーマンスを発揮しようとする「動機」が形成される(高まる)事業となっているかが大切だと思います。

その辺りは記事でも対象業務範囲を広げることなどの指摘がされています。

・インフラの維持管理などに必要な基準の明確化と厳格な評価により、施設や提供されるサービスの水準向上と共に、運営コストの低減も期待できる。
・採算が需要に左右されず、キャッシュフローが安定するため、地元業者の参入も容易になる。
事業範囲が建設にまで広がり、資金の流動化スキームも導入されると、民間資金の活用によるインフラの新設や更新の促進も期待できる。

PPPの利益は「行政の効率化」と「公的サービスの品質向上」
だから成果基準作りが重要

指標連動方式(アベイラビリティ・ペイメント方式)の進展は、「成果」の基準設定次第だと思います。

以前PPP的関心でも書いた、PFS(Pay for Success)も、官から民への事業の委託に際して支払いを「成果に連動させる」という考え方は指標連動方式と共通しています。

成果基準の設定に際して、PFSであれば「地域課題の因果」を正確に理解をすることが前提となるし、アベイラビリティ・ペイメント方式でも民間事業者の動機を形成する事業領域や業務範囲の検討が前提となります。

PPP的な考え方を用いた施策を検討する際、まずはじめに「行政の効率(≒投下費用・人材・時間の削減など)」に目が向きがちではないでしょうか。もちろん、そうすることで予算の最適配分が進み「できる施策が増える」のは歓迎です。
しかしPPPによる施策で本来的に大切にされるべきことは「住民が受け取る公的サービスの向上」です。これを考えないPPPは意味がないと思います。その点、PFSやアベイラビリティ・ペイメント方式では行政サービス品質の向上(=成果を明確にしてその達成を求めること)を前提としていることからも歓迎されるべき方式だと思います。

PPPのもう一つの利益
民間の新たなビジネスチャンスにできるか

一定支払いを前提として、そこにボーナスとペナルティを組み合わせる方式は民間、とりわけ中小の地元企業とって参入しやすくなるとともに、規模の小さい自治体の公共施設維持管理においても負担を軽減できる機会になると思います。つまり、今までにない「機会」が双方に生じると言えます。

このように、PPP的な取り組みは「行政の効率化」と「公的サービスの品質向上」という二つの利益だけではなく「新たな民間ビジネスのチャンス」を創造するという社会的な利益をもたらすとも言えます。

地域企業に新たなビジネスチャンスをもたらす指標連動方式(アベイラビリティ・ペイメント方式)の普及がどんなスピードで進展するか、注目です。


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