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制作について1 一番最初に考えること

昨年に続き、逗子の芸術祭、ZUSHI ART FESTIVALに参加しました。

今年の作品のタイトルは「空き家おくりびと」。
逗子市内に実在する空き家(森川さんの家だから会場名は森川邸なのだ)が舞台で、そこを片付けている最中にたくさんのお人形さんたちに出会ったのがきっかけです。

作品の構想を練る中、暗闇の中ずっと眠っていたお人形に外の空気を吸わせてあげたり、今の逗子を見せてあげたいなという思いはずっとあって。

作品にするにあたり、色々悩んだけれど、シンプルに「じゃあお人形とたびに出よう。その思い出を会場に残せばいいや」となりました。


会場では空き家おくりびとの手記というものを記しました。
良い格好しいの私にしては作品にいたるまでの悩みや経緯を「素直」に書けたと思うので、長いのですがよかったらご覧ください。

空き家おくりびとの手記  記 YABESOY

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01.空き家利活用以前のこと

建築の出版仕事をしていたので空き家なんかは詳しいつもりだった。
古い建築が改修され、利活用される。リノベにコンバージョン、旧家再生、町家カフェとか。うんうん、はやってるよね。イマドキってかんじ。美しいではないか。

森川邸のお手伝いをしていて、「そこに至る」までのみちのりを知らなかっただけだと知らされた。

森川邸に限らず昔の家って物が多い。
「空き家を改修だのする時、あれらはどこに行ってしまったのだろう?」とふと思った。そこが本当のはじまり。


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02.産廃コースと動けないコース

どうやら空き家を利活用する際、アンティーク家具とか素晴らしい柱材などめぼしい以外は、一緒くたにまとめて「産業廃棄物」になりうることが多いそう。

物は多いし、自分の別所帯はあるしという中で、持ち主を失った家に存在する物を調べて、ホコリを取り払って、人に譲ったり、値段をつけてフリマに出すなんていうのも大変だろう。

心の中を整理して決心し、「それでは業者さん、、全部捨てていいです!!お願いします!(まとめて産廃コース)」になるのも無理はない。

でもみんながみんなそうじゃない。
きっと思い出を手放せなくて、心苦しくて「動けない」人もいると思うのだ。


行政や不動産が「空き家をそのままにしておくことは危険ですし迷惑ですよ。なんとかしましょうよ」っていっているけれど。
そういう問題じゃなくて、空き家問題の根っこが相続の法律ありきっていうのもわかっているけれど、
心が、気持ちが、動けなくてそのままになっている空き家もある。

こういう気持ちの存在&それを和らげる行いを表現したいと思った。

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03.心苦しさを解き放つには 〜森川邸のケース〜

空き家でアートするとはいったものの企画趣旨は出てこない。

ただ目の前の物の整理整頓をし続けながら、産廃ではなく、物に対する別のあり方を示すのが有用ではないかとぼんやり思った。

そんな中、いつみさんが「陶器・食器類、人形などなんとたくさん残されていたことか・・」とおっしゃった。
森川邸は茶道華道を嗜むお祖母様、おもてなし好きのお父様、各種手芸の達人のお母様が暮らした家。遺された人形と和洋様々な器の数が抜きん出ている。

これらをなんとかしたら、いつみさんの心も少しは楽にならないかしら?


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04.人形との対話

たくさんの器については器のお店を開いてなんとかすることにした。

あとは人形や置物だ。
お母様が趣味で作ったものだけでなく、教員だったお父様の修学旅行や実習のお土産らしきものも多数ある。

日光、伊豆高原、木彫りのクマ、こけし。きっと空き家になってからの3年間は暗闇の中で過ごしているのだ。

「この子達に、外の空気を吸わせてあげたいな。」
そんな願いを持ちながら、心のなかで人形と対話をし続けた。

逗子好きの森川家の人に選ばれた君たちだけど、今の逗子の様子って知っているかい?


せっかくだから見に行かない?

きみ、かわいいなあ。ポンタって呼んでいい?

妄想はどんどん膨らんで、私は自然と空き家おくりびとになり、9月末の曇ったとある日に旅は行われた。

本会場ではそんな旅の様子を2階で上映しています。

1階の奥の部屋では、彼らと対話したときの写真と、彼らそのものを用いた空間をで展示しています。

まだ旅をしていない子もいるから、会期中また旅に出ようと思います。
見かけてたら、彼らの眼差しを見守ってあげてください。

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