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三角関係を探せ! 98年アカデミー賞作品より1998.05.31 矢部明洋

  今年のアカデミー賞は『タイタニック』の圧勝で記憶されるのだろうが、主要部門に限っては『恋愛小説家』『グッド・ウィル・ハンティング』『L.A.コンフィデンシャル』でバランスよく賞を分け合った風にも見える。確かに、『タイタニック』の正面切ったパワーは脱帽ものなのだが、『恋愛小説家』が巧みな話術と現代性で特に印象深い。
 個人的にニール・サイモンの芝居が好きなので、その、ユーモアを武器に都会人の孤独 や家族の葛藤を描くサイモン風のストーリーが身につまされる。さらに“倍償千恵子” しているヒロイン像がグッド。日本が舞台なら、あれは彼女の役どころであり、“さくら”ファンとしては、当然ヘレン・ハントが好きになった。かなりの儲け役でもあることを割り引いても、ヘレンを「この十年で最高にチャーミングなキャラクターを銀幕上に造形した」と褒めていい。だって恋の相手がジャック・ニコルソンなのだから。
 映画は冒頭から、嫌われ者の小説家役・ジャックの怪演で観客のつかみはOK。たいが いの観客は、自分の性格を全面的に肯定しているわけではなく、己に対して自信のなさを抱えているものだ。寅さんがいい例で、嫌われ者の主人公は案外、観客にとっては感情移入しやすい。この嫌な奴が、行きつけのレストランのウエイトレス、ヘレンに求愛できるまでに人格的更生を果たすのが主筋なので、当然、観客のカタルシスも保証付きというわけである。設定が実に戦略的だ。
 このオスカー受賞男女2人に、物語の展開役として絡むのがジャックの隣人のゲイ画家 。3人はそれぞれ心にトラウマ(ここの「神経症」「シングルマザー」「同性愛」という 設定が現代的で、作品に緊張感や切実さをもたらす効果も果たしている)を抱えるが、他 の2人と関係し、打ち解けることでハッピーになってゆく。このヒューマンな三角関係の 設定が巧いところだ。話の展開もドミノ倒しのように流れてゆき心地よい。「ジェットコ ースター・ムービー」という形容をよく聞くが、この作品は「ドミノ・ムービー」と命名 したいほど話の転がし方が上手で、観客をハッピーにしてくれる。そして、ドミノの最初 の1ピースを倒す小道具が、子犬というのが洒落ている。
 『グッド・ウィル・ハンティング』もドラマの構造は三角関係。これはちょっと複雑で 、三角形がマット・ディモンを共通の頂点に2つ存在する。1つはロビン・ウィリアムス と、彼の同窓でマットを引き立てる大学教授の3者による「才能」を葛藤のテーマとする 3角関係。もう1つはマットと恋人、友人の「友情」「愛情」「階級」を軸に展開する3 角関係(ただこっちの方は少々、サブ的だが)。このドラマ設計が評価されてのオリジナ ル脚本賞だとは思う。ただ、良心作として申し分ない素材をそろえながら、観客を映画に のめりこませる程の仕掛けも描写も無かったように、私には思えた。
 勝者『タイタニック』だって堂々たる三角関係。ヒーロー&ヒロインに敵役という古典 的なまでにオーソドックスなやつで、ディカプリオとケイト・ウィンスレットの初々しさ 以外は何の新鮮味もないが、一直線の力強いカタルシスは保証書付き。おまけに『エイリ アン2』キャメロンの、これでもかこれでもか流バトル演出。豪華セットに特撮。盛り上 がらないわけがない。音楽も良かったし、王道を行く娯楽作品だ。
 『L.A.コンフィデンシャル』は未見だが、これもひょっとして三角関係?

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