矢部明洋のお蔵出し 日記編 2000年1月
1月某日・小賢しいゾ みえぞう(京都編その5)
元旦は義兄の家に一族が集った。大人に加え、みえぞうと同じ年頃も含め、チビっ子たちも集合する。
わいわいがやがやの雰囲気に興奮したみえぞうは昼寝も忘れ、遊び呆けていた。
前日は我が実家で、弟妹たち一家が集まり、こちらも小学生から1歳児までチビっ子軍団が集結、狭い家で暴れ狂っておった。
そのせいか、みえぞうは京都に来てからよくしゃべる。
名前を呼ぶと手をあげて「は~い」と答えられるのだが、それが大人にウケるのに味をしめて、事あるごとに「は~い」と声をあげる。また、オウムのように大人の言うことをたどたどしく真似て話そうとする。それがまた隣近所にジジ、ババにウケる。まったく絶好調で年末年始を過ごしたわけだが、昼間の興奮が過ぎて夢でも見るのか、深夜に長々とぐずる始末だ。
他にも、危険な物を触ろうとして「ダメっ」と叱られても、首をかしげながらブッリッコ笑いでごまかそうとするし、こいつは要領ばかりいい、小者にしかなれんとオニとも意見の一致をみた。そこで、みえぞうには新ニックネームをお年玉替りに献上することにした。
「小役人クン」だ。
1月某日・ミュージカルな一日(京都編その6)
帰省して初めて何も予定にない日ができた。と思ったら山口に戻る日だった。
それでも、ゆっくりテレビでも見るかという気になり、新聞番組欄をみると『サウンド・オブ・ミュージック』をやっていた。 中学の頃、リバイバル公開を劇場で見て、映画の魅力に陶然とさせられた記念すべき名作である。
改めてテレビでみていて、なつかしいミュージカルナンバーを一緒に口ずさんだりしていると不覚にも涙がでてくる。それに作劇も緻密だし、ワンシーン、ワンシーンかちっとした画を撮っている。よく出来た映画だ。テレビで映画を見ると、作品に酔わない分、作り手の計算が良く見える。 多感な時期に、この手の名作に劇場で触れるのは幸せなことだ。もちろん、みえぞうと一緒に見ていたわけだが、こいつはそもそもまだテレビに慣れてないので食い入るように見ていた。ミュージカル場面では足を踏み鳴らし踊っていた。小学生くらいになったら劇場へ『サウンド・オブ・ミュージック』を見に連れて行かねば、と思ってしまう。
『サウンド・オブ・ミュージック』に限らず、『マイ・フェア・レディー』や『メリー・ポピンズ』だって多感な頃に劇場で見ることができれば素晴らしい。チャップリンが無声映画で見せるマイム芸や『燃えよドラゴン』のブルース・リーにも劇場でファースト・コンタクトしてほしい。
日本に1カ所でいいから、名作専門の劇場ができないものか。
みえぞうには、あと宮崎駿の『未来少年コナン』も見せねばならない。NHKよ、一挙再放送をやってくれ。
1月某日・オニの所業
叔父が建設会社をやっている。中元、歳暮のシーズンには山のように贈答品が来るという。時々おすそ分けがはるばる実家の京都経由で山口にも届くが、「こんなに美味い酒があるのか」という程のスコッチをもらった事があった。
この暮れには「お正月用に飲んで」と日本酒をもらった。桐箱に入り何やらパッケージからして美味しそうだ。あいにく正月には飲む機会を逸し、山口の家に置いておいた。
それが間違いだった。
ある夜、宿直明けで帰宅すると、その日本酒の瓶が空だった。前夜、オニが独りで飲んでしまったのである。「おいしかったヨ~」じゃねいだろう!!
食い物の恨みは怖い、とされるが、小生はそんな事くらいではもう怒る気力もオニに対しては起こらない。それだけではないのである。何と前夜、オニが酒をかっ食らっている間に、みえぞうが風邪をひいてしまった。帰ったら熱でぐったりしているではないか。
明日は市役所へ離婚届をもらいに行こう。
いや、マジで。
1月某日・オニに天罰くだる
やりたい放題のオニは今夜はワインを飲んでいる。
夕食がパスタだったせいだ。
食後、ほろ酔い気分で風呂に入って、すぐ寝やがった。が、それも束の間、夜中に起きだしトイレで全部、吐いてしまった。
さて、その翌日もオニはワインの悪酔いが続き、寝たきり状態。起き上がると途端に気持ち悪くなる状態が終日、続いた。
これを天罰といわず何としよう。
その日、私は泊まり勤務だったが、みえぞうに飯も食わしてやれないと言い出すので、急きょ若手のS口記者に宿直を交代してもらって帰宅した。
みえぞうは風邪から回復したのと交代にオニがくたばった。
ざまー見ろ!!
1月某日・マヌケな反抗期
みえぞうが反抗期に突入した。
正月は、「○○××くん」(本名ね)と呼びかけると「は~い」と嬉しそうに手を挙げて返事をしていた。自然と覚えたアントニオ猪木の物まね、「1、2、3っ、ダーッ!」も、「1、2、3っ!」と振ると、「ダ~ッ」と嬉しそうに右手を天に突き上げていた。
それが、ここ1週間ばかり、本名を呼んでも、「1、2、3っ!」と振っても、「イヤ」と首を振って拒否するばかり。まったく絵に書いたような反抗期で笑ってしまう。
なぜ、笑ってしまうかというと、折々に読んでいたスポック博士の育児書の記述と全く同じ反応を、いちいち眼前でみえぞうが再現してくれるからである。
もう事前にどう反応するか分かっているので、「イヤ」と言われても、言うことを聞かなくても、憎たらしい気持ちは湧かず、みえぞうがマヌケに見えて仕方がない。