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さらば、山根貞男。ハロー、リリー!  (あるいは、さらば映画評論家)        ~再び『鉄道員(ぽっぽや)』 1999.07.02 矢部明洋

  九州発行の新聞を見た限りでのことだが、朝毎読の全国紙3紙がそろって『鉄道員(ぽっぽや)』をほめている。
 オイ、オイ、オイだね、まったく。
 内容も、3者ともそっくりなのがおもしろい。
 要は高倉健をほめる事に終止している。雪景色のローカル駅に健さんが独りたたずんでいるだけで泣けるんだそうだ。
 毎読は記者とおぼしき執筆者で、「しょうがないなー」で済ませられるが、朝日の評者は映画評論家、山根貞男氏である。あの『映画渡世 天・地の巻』をものにした山根貞男である。なんかイヤイヤほめてるみたいな文章だったが、もう信用しない。
 朝日の夕刊映画評は、ここしばらく記者をやめて、白井佳男ら評論家を起用している。新聞の映画評を信用できない私の偏見もあるのだが、なんかイヤイヤほめてるみたいな文章が多い。映画広告が夕刊の大きな収入源である業界の宿命か。
 映画で飯を食ってる映画評論家ほど信用できないという悲しい現実が、この業界にはある。ギャラの大半の出元が映画会社の広告料なのだから、極端な悪口は言えなかろう。面白い言説はそもそも期待できない。
 信用できるのは映画好きの作家など、業界に頼らずとも自分の食い扶持を稼げる人たちである。
 例えば長部日出雄、あるいは文部官僚の寺脇研。ことに寺脇氏はピンク映画もきっちり見、映画ライター以上に映画をフォローしている。昨年、何かの間違いで絶賛あるいは高評価された『愛を乞うひと』『カンゾー先生』を「評価できない」と喝破したのは、知る限りこの人だけだった。
 さて最近、新たに信用できる評者を発見した。
 このHPのオーナー、タカクラが絶賛しているイラストレーターのリリー・フランキーだ。ぴあの連載をまとめた映画本が先日出版され、改めてまとめ読みしたのだが、「よくぞ、言ってくれた」と膝を打ちたくなる文章、爆笑文章が続出する。ストレートな悪口を避けようとする工夫が、いい芸になっている。特に吉永小百合、奥田瑛二についての文章は、まったく我が意を得たりで最高の出来。我が家は一家で爆笑した。
 リリーをとっても気に入ったタカクラは既刊の著書をもう1冊買ってきたようだが、残念ながら二匹目のドジョウはいなかったようだ。
 蛇足ながら、リリーに似た感性の持ち主、杉作J太郎もおもしろいヨ。彼も本職はマンガ家なんですなー。
 

※タカクラ注 リリーさんの本は『日本のみなさんさようなら』(情報センター出版局 のち文春文庫)です。古書店でオレンジ色の表紙の情報センター出版局版を見つけたら絶対書いだし、文庫版でもぜひ買って読んで。

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