在宅医療広報作戦(日常診療)
現在の診療所に勤務が決まった時、私には何としてもこの地に在宅医療を定着させたいという大いなる野望?があった。
当時は「訪問診療」という言葉は知られておらず、訪問看護ステーションですら見つけるのが難しい時代だった。
新しいことを始める高揚感も手伝って、「在宅診療」という言葉を大々的に看板に掲載したかったのであるが、医師会から「これこれやぶ君、標榜できる診療科名は決まっているのです。そんな事を看板に書いちゃだめでしょう?」などといった指導が入りそうで、気の小さい私は自分の診療所の前ににだけ掲載することにした。
少なくとも、診療所に来てくれる患者さんは見てくれる訳だし。
そして開院。
その看板をちょっと不思議そうに見ている患者さん達。
みんなしっかり見て「在宅診療」という言葉を覚えて帰ってね、などと思っていたら、ある日事務員が「先生、大変!」と私を外に連れ出す。
一緒に出てみると・・
私達、ここで何をやってると思われていたんだろう。
地域の広報誌に無料で診療所の紹介を載せてもらえることになった。
自分自身で紹介文を作るのであるが、「話しやすい雰囲気」だとか「明るい人柄」などと自分をアピールするのはあまり乗り気ではなかったので、この機会に思い切り在宅医療のアピールをすることにした。
ねえ、在宅の方を何人くらい担当した? 今まで何人くらいお看取りした?
そんなことを事務員に尋ねながら、 自分で紹介文を作って出版社に送った。
戻ってきた校正用の原稿を見て事務員が
「先生、ちょっと大きめの風呂敷を広げたい気持ちはわかりますけど、こんなに看取ったら県内に誰一人いなくなります」
私じゃないもん。
そんなこと、書いてないもん。