反撃(日常診療)
若い男の子が診療所に来た。
私より二回りは大きい屈強な若者である。
聞くとち○ち○に何かできているらしい。
診ると、ち○ち○に小さな鶏のとさかのようなできものがある。
尖圭コンジローマ。
ウイルス感染による皮膚病変で性感染症として分類されている。
凍結療法や電気焼灼(電気メスによる凝固)、あるいは塗り薬での治療があるが、この方は電気焼灼による治療を希望された。
処置台で横になり、いざ処置を始めようとして麻酔の注射を取り出すと、
「それ、どこに注射するんですか?」
「どこって、手や足に麻酔を打ったってしょうがないだろ?」
「ええ、ち○ち○に打つんですか!」
「説明したじゃないか」
「ああ・・!」
医師の説明なんて、自分に都合のいいことだけしか耳に入っていないなどと言うことは日常茶飯事なのである。
「どうする? 心の準備ができるまで延期する?」
「いえ、やります・・やります」
まな板の上の鯉・・というよりトドに近い体格であるが、やたらと大きな息を繰り返し、極度に緊張していることが見え見えである。
しかしながら、5分もかからない簡単な処置のために、わざわざ鎮静剤を使うほうが嫌なので、少し落ち着くのを待って、
「じゃ、今から麻酔するよ。ちょっとチクッとするから」
「ま、待って下さい」
「もう諦めろ。これがすめば後は痛みがないから」
「あ、あ、あ・・」
「痛い!」
「痛い、痛いって・・!!」
前者はもちろん麻酔を打たれた若者、でもって後者は私の声である。
彼は注射針が刺入された瞬間、そのグローブのようなごっつい手で私の手を思い切りひねりあげたのである。
「痛いじゃないか!」
「すみません、すみません」
処置室は大騒ぎ。
その後、気の小さい若者は何の痛みもなく普通に処置を終え、他方、ひねり上げられた私の手の痛みは翌日までしっかりと残った。