こんなところ(日常診療)
70歳半ばの男性。血尿で受診された。
もともと肝臓の働きが相当に悪いため、検査をして病気が見つかったとしても手術なんて荒っぽい治療はできそうもない方なのであるが、さりとて医者の方から「もういいんじゃないの」なんて切って捨てる訳にもいかない。
かなり神経質な方なのである。
相談の上、腎臓の造影検査をやってみたが、幸いにも緊急を要するような病気は見つからなかった。
ほっと一安心し、後はCTや膀胱の内視鏡検査をどうするかなどと考えていたら、数日後、その方が調子が悪くなったと受診された。
奥さんと小学生ぐらいの男の子と一緒に診療所に来られた方は、明らかに元気がなくなっている。
「どうしたの?」
「2、3日前から熱が続いて」
「診療所に行こうって言ったんだけど、この人、言うことを聞かなくて・・」と、付き添ってきた奥さん。
調べてみると発熱の原因は尿路感染。それに加えて腹水もみられる。
「お腹、張ってないですか?」
「そう言えば、ちょっと張ってるような」
「食欲は?」
「まあ、食べてますけど」
その後で、奥さんが私に向かって手を横に振っている。
食べてないのか・・
尿路感染の治療には抗生物質が必要であるが、抗生物質によってさらに肝臓に負担がかかるかも・・そんなことを思案していると、おばあさんの横についてきていた男の子。
「おじいちゃん悪いの? こんなところにいないで病院に行ってちゃんと診てもらった方がいいんじゃない?」
こんなところ・・僕ちゃん、先生ちょっと傷ついちゃったじゃないか・・