
アンプルカット(在宅医療)
私は往診先で注射や点滴をするのは好きではない。
静脈の穿刺は言うに及ばず、その過程でドタバタしたりすると自分のカッコ悪さに思い切り凹むからである。
二宮和也(ブラックペアン)、山下智久(コードブルー)、坂口憲二(医龍)、米倉涼子(ドクターX)等々、私は何よりカッコいい医師を目指してきたのである。
これらの方々が点滴の際に不手際をやらかし、あたふたする場面なんてとても想像できない。
カッコいい医師を目指すなら、泌尿器科を専攻したのは拙かったんじゃない?と言った君。
ちょっと話があるから後で先生の部屋に来なさい。
そんな訳で、こういった処置はもっぱら訪問看護に丸投げをしているが、それでも時に自分で点滴をしなければならない状況に出くわす。
点滴本体を準備して、中にいれる薬のアンプルを切って、注射器で薬を吸って点滴の中に入れて・・あ、アルコール綿はどこだっけと周囲を探し、再度準備中の物品を見たら猫がその上を歩いていたりする。
もう、大騒ぎなのである。
全然カッコよくないのである。
櫻井翔や福士蒼汰(神様のカルテ)は多分、診療中に猫と格闘したりはしない。
今はアンプルもプラスチック製のものが多くなり、ガラスのアンプルだって簡単に切れるようにはなっているが、かつてガラスのアンプルを切るのはちょっとしたテクニックが必要だった。
ヤスリのようなものでアンプルの首をギリギリとこすって傷をつけた後で、両手でパキッとアンプルの首を折らなければいけない(少し引っ張り気味に力を加えるときれいに折れます)
うまく折ってやらないとアンプルが怒る訳でもないのであろうが、ガラスが恐ろしく尖った形に割れて容赦なくこちらの手を攻撃してくる。
そのことを注意された看護学生が、緊張のあまりアンプル自体を握りつぶしてしまった逸話を知っている。
さすがにその看護学生のように緊張することはなくなったが、逆に緊張感を欠き過ぎると思わぬ災難に見舞われることになる。
ある日の往診で片手間にアンプルを切っていたところ、そのなめきった姿勢に思い切り罰が当たり、尖ったガラスで親指を派手に切ってしまった。
ぎえ~!!と絶叫したくなるほどの痛みであったが、患者さんやご家族の手前、痛い痛いと大騒ぎをやらかす訳にもいかず、ぐっと我慢してすばやく傷ついた親指を掌の中に握り込む。
ズキッ、ズキッと脈打つように押し寄せる痛みのため、背中に変な汗が流れようと、カッコいい医師でいるためにはこんな失態に気づかれてはならないのである。
我慢しろ、根性見せろ、大沢たかお(JIN -仁-)になりたくないのかと言い聞かせながら、何事もなかったかのような顔をして点滴をすませ、患者さんのお宅からそそくさと引き上げる。
玄関まで見送りに来てくれたご家族に「お大事になさってください」とご挨拶。
するとご家族、
「先生もどうかお大事に」
敬称なしで勝手にお名前を使わせて頂きました方々、申し訳ありませんでした。ちなみに私が一番親近感を持てるのは、吉岡秀隆(Dr.コトー診療所)です。