どうして死んだのですか?(在宅医療・看取り)
とある土曜日。
そろそろ診療も終わろうかという頃になって突然の往診依頼があった。
なんでもここ2、3日、90歳近いおじいさんの元気がなくなり食事もあまりとれていないらしく、ご家族が心配しての往診依頼である。
聞けば1週間ぐらい前まではなんとか歩く事もできたようであるが、最近では飲み込む事もままならないとの事。
そこではたと気づいた。なんで私なの?
住所を見れば決して近くの方ではない。
確かに私は「在宅診療」という看板を掲げてはいるが、その前に大きく「泌尿器科」と書いているではないか。
それとなく近くに往診してくれる医師がいないのか尋ねてみると、いつも診て貰っている内科の医師には「休日の前には往診しない」との理由で断られたらしい。
で、例によって「何でも診てくれる」と間違った噂が広まっている私の診療所に来たというのが事の顛末であった。
何でも診るんじゃなくて、断り切れずに何にでも巻き込まれているだけなのに。
診療を終えてから、点滴や超音波を車に積み込んでお宅にお伺いした。
お嫁さんと思われる女性に、じいちゃんが休んでいる場所に案内してもらう。
大きなお宅であり、同一敷地のなかにふたつの立派な家が建っている。
じいちゃんとばあちゃんは二人で奥の方の家に住んでいるらしい。
「おじいちゃん、先生が来てくれたよ」とお嫁さんが声をかける。
「おじいちゃん、おじいちゃんって」
相当、耳が遠い方なんだなあと思いながら玄関で待っていると、
「おじいちゃん!おじいちゃん!おじいちゃ~ん!!」と続く絶叫の声。
ものすごく、ものすごく嫌な予感。
このまま一目散に逃げたい。
そしてその予感は現実のものとなり、次に耳にしたその言葉は、
「先生!おじいちゃんが・・死んでる!!」
急いで上がって診察してみると、間違いなくじいちゃんは亡くなっている。
「先生、おじいちゃん、どうして死んだのですか!?」って・・わかりませんよ。
沢口靖子じゃないんだし。
それから警察に連絡しての検視、死体検案書作成。
結局3時間近く現場での足止め。土曜日の午後なのに。
そして私はぼんやりと考えていた。
生きてるところを一度も見たことがない人に対して、はたして往診料は請求できるのであろうか・・などと