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天然の群れ(日常診療)

 職員休憩室のコンセントから火花が出た。

 幸いにもその時、近くに職員がいたために火事には至らず事なきを得たが、そのコンセントは使い物にならなくなってしまった。
 休憩室にはもうひとつコンセントがあるが、それは 2つある冷蔵庫が使っている。

「お湯を沸かしてコーヒーが飲みたいぃ~」という看護師が目を付けたのが災害時の備えとして準備していたポータブル電源。

「先生、これ使ってもいい?」

 幸いにも購入してから一度も災害は起こっていないので、ベッドの下でずっと暇そうにしていたポータブル電源は、看護師のコーヒーを沸かすために初めて活躍の場を与えられた訳である。

 使ってみてびっくり。
 電気ケトルというのは予想以上に電力を消費し、お湯を沸かしているうちに残っていた容量ほとんどを使い切ってしまった。
 災害に備えて、普段からちゃんと充電していなかったツケがこんなところに回ってくるのである。

 今度はポータブル電源を充電しなければならない。

「このポータブル電源って、お湯を沸かしながら充電できたりするの?」

 実はできるのである。
 このポータブル電源は電力を供給しながら、自分自身も充電できる機能が備わっている。

「じゃ、ポータブル電源を充電しながらお湯を沸かそう」・・って、そのコンセントが使えないから困っているのである。
 君はほんと天然だなあ。

 何としても休憩室でお湯を沸かすことを諦めない看護師は、となりの部屋のコンセントから長い延長コードを引っ張ってきてポータブル電源に繋いでいる。

「これでポータブル電源の充電は出来るし、お湯も沸かせるしね」
 看護師は上機嫌。
 
 しばらくして通りかかった事務員。
 廊下を走るコードを見ながら「何やってるんですか?」  

「コンセントが壊れた部屋でお湯を沸かすのにポータブル電源を使ってたんだけど、ケトルが予想以上に電気を食うのでポタ電の電気がなくなって・・」

 今までの経過を説明すると、   
「通路が邪魔ですので、ポータブル電源はこちらの広い部屋で充電してもらえませんか?」

 君は私の話を聞いていなかったのか?
「そしたらポータブル電源は充電できても、肝心のお湯が沸かせないでしょう?」
 やれやれ、うちの診療所には天然がもうひとりいた。

 事務員、首をかしげながら
「延長コードが来てるなら、それをケトルに繋げばいいじゃないですか。わざわざポータブル電源を間にはさむなんてややこしいことをしなくても」

 あ・・

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