エイリアン(在宅医療)
私はかつて泌尿器科専門医であった。
泌尿器科専門医というのは、指定された研修機関で決められた期間研修を積み、なおかつ指定された学会に指定された回数以上出席し、論文を書き、最後には難しい試験をパスしなければならない。
この私ごときが何故そんな大それた肩書きを有していたかというと、寝る暇を惜しんで勉学と研修に明け暮れた結果・・ではなく、私達が大学で研修している時に突然この制度が導入され、この制度をスムーズに定着させるためのとりあえずの経過措置として、卒後何年以上の医者は申請書類さえ提出すれば試験が免除されるという馬鹿げた特典がもうけられ、私はまんまとその特典を利用して専門医になってしまったという訳である
世のみなさんに問いたい。こんな安直な専門医がいてもいいのか(安心してください。現在はちゃんと返上していますので)
実際、在宅医療を初めてからというもの、この専門医なる肩書きが役にたった場面など皆無である。
私が担当する方々は脳梗塞や認知症などの脳神経疾患、骨折やリウマチなどの整形外科疾患、消化器疾患に呼吸器疾患、膠原病や神経難病に血液疾患、そして一番多いのは各科の悪性疾患であり、それこそありとあらゆる分野にまたがっている。
考えてみれば在宅で寝たきりになったような方が、都合よく泌尿器科領域の病気だけを持っている確率の方が少ないのである。
最初、泌尿器科の相談に呼ばれて在宅に出向き、引き際を読み違える性格も災いして、気がつけば何もかも相談に乗ってしまっている自分がいる。
こんなことやってていいのか・・は気がつけば私がいつもつぶやいている口癖みたいなものである。
先日、往診に行った先での話。
お嫁さんが、最近、おばあちゃんの胸が膨らんできたと訴える。
「ほお~、そりゃよかったじゃないですか」などと軽口をたたきながら診察させて頂くと、なんと・・胸の真ん中がピラミッドのごとく飛び出て膨れている。
なんじゃあ、こりゃあ(年配の方々、ここは松田優作口調でお願いします)。
「先生、何ですか、これは?」とお嫁さん。
「何ですかって・・私は泌尿器科なんだから」
整形外科にでも相談してみますかといいながら、自分でも一生懸命思い当たる病気を考えてみる。
「あ、もしかして・・エイリアン?」
そのうち殴られるよ、お前。