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ED治療薬(日常診療)
70歳前の男性。
問診票の性的障害のところに○印がついている。
性交渉の前に服用すると勃起力が改善する治療薬が世に出た時は、それこそ興味本位が主体の異常な盛り上がり見せ、この薬を扱うことが何か特別なことのように受け取られ、我が診療所に超有名な週刊誌から取材の電話が来たこともあった。
それから時は過ぎ、勃起障害(ED)もそれなりに市民権を獲得しつつあるのか、最近は当たり前の治療として静かに定着しつつある。
さてこの初老の男性。私の前に座ると症状を訴え始める。間違いなくEDである。
EDの方は少々恥ずかしそうに症状を訴えることが多いのであるが、この方はさらりと言ってのける。
「そりゃ、相手が若いべっぴんなら、もうちょっと違うとは思うんだけどなあ・・」
調子にのって、うっかり「そりゃそうだね」などと相づちを打とうものなら、後に立っている看護婦の視線が怖いので、そこは何事もないようにやり過ごす。
「じゃ、治療しますか?」
「やってもらおうかな」
と言うことになり、ED治療薬の説明をさせて頂く。
性交渉の1時間前くらいに服用すること。
効果がないからといって追加で何錠も服用するのは危険であり、1日1回まで、決められた量の服用にとどめること。
それに加えて副作用の説明。
ED治療薬は狭心症治療薬であるニトログリセリン系の薬と併用すると、命に関わる重大な副作用を引き起こすので、その点を充分に説明したところ、
「もし、アレを頑張ってて胸が苦しくなったら、軽い気持ちで心臓の治療はできないということだな」
すごい。私の説明をちょっと聞いただけでそこまで理解するとは。
そう、狭心症の治療薬が最初から入っていようが、ED治療薬が体内にある時に後から入ってこようが関係はないのである。
すでにニトロ系の薬を使用している方には ED治療薬を処方しないので、むしろ事故は ED治療薬を服用した方が、ED治療薬の影響が抜けきらないうちに狭心症を発症した時に起こりやすいとも言える。
「よくご存じですね」
「実は、隣町でもらったことがあって、その時にも説明を聞いたから」
なんだ、使ったことがあるのか。
どおりで私の説明もあまり真剣に聞いていなかったはずだ。それなら安心して ED治療薬を処方させて頂きましょう。
その患者さん、帰りがけに薬が入った袋を私に見せながら
「で、先生。この薬は毎食後に飲むのか?」
もう一回、診察室の中に入りなさい。