駐車場所(在宅医療)
初めて往診に行く時は少々気をつかう。
事前にしっかりと往診先の場所を確認してから出発するのであるが、地図のイメージと実際に行ってみるのとでは大違い。
車の乗り入れは可能と聞いていたので安心して細い道を入って行き、側溝に思い切り脱輪して途方にくれたこともある。
今回の往診も「車の乗り入れは可能」、さらに「家の前に駐車スペースがある」ことを確認してからお伺いした。
地図を片手にちょっと狭い道を進み、目指すお宅を発見。
ところが指定された駐車場所を見てみると、確かにカーポートらしき屋根があるのだが、駐車場というより普通の路上なのである。
早い話、狭い道の上に屋根をつけちゃった感じで・・こんなことしていいの?
その道が行き止まりならいいのであるが、狭いながらも道は続いており、その先に2、3件の家が見える。
こんな所に車を停めてしまえば奥の家にはどうやって行けばいいのだろう。歩くにしても邪魔になることは間違いないし。
しかしながら、近くには駐車するスペースなど見あたらず、仕方なくその場所に往診車を停めることにした。
いくら駐車禁止除外指定車の標章を持っていても、思い切り邪魔になる場所に車を停めるのは気が引ける。
急いで往診をすませて家から出てくると、往診車の近くにおじいさんが立っているではないか。
恐れていた事態である。奥の家の人じゃないだろうなあ・・。
別に暇だからとは言わないが、何かにつけてクレームをつける方がいるのである。
そんな方にとって今日の往診車の駐車場所は格好の標的となりかねない。
「こんな所に停めて、人の迷惑を考えないのか!」などと怒鳴られたら、ここに駐車するように言われたとか、状態の悪い人の往診だからなどと言い訳してもろくな結果にはならない。
第一、このお宅にはこれから何度も往診に来るかもしれないのである。近隣の方とのトラブルはとても具合が悪い。
とにかく相手を刺激しないように目を伏せて往診車をゆっくりと移動させていると、そのおじいさんも往診車と一緒に移動し、さらに怖そうな顔でこちらを見ている。
このまま何事もなく終わってくれないかという私の希望は無惨にも裏切られ、おじいさんは往診車の横まで来て、助手席の窓をコツコツ。
もう無視する訳にはいかないし、今後の事を考えれば逃げる訳にもいかない。
諦めてお小言を頂戴する覚悟で窓を開けた。
こんな時は謝るに限る。
「あんたの車だけどね」
「すみません、すみません。すぐに動かします」
「後の赤いランプ、ひとつ切れてるよ」