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たかが10センチ、されど10センチ(日常診療)
尿をうまく出せなくなった人が、自分自身でカテーテルという管を膀胱まで入れ、残っている尿を排泄させる自己導尿という方法がある。
泌尿器科ではさして珍しくもない手技であり、男女を問わず、多くの方が毎日のように自己導尿を行っている。
数回導尿をすれば、また自分でちゃんと排尿できるようになるならいいのであるが、多くの方は長い間、場合によっては生涯、この手技を続けなければならない。
導尿の期間が長くなってくると自分の手技が確立されて来るものであり、使う管(カテーテル)の硬さや長さ、先端の形状等にもこだわりが出てくる。
少しくらいの違いでさえ簡単には妥協できなくなるのである。
先日、業者の方から「今後しばらくは長さ30センチのカテーテルが出荷できず、その間は40センチのカテーテルで代用してほしい」との連絡が来た。
たかが10センチ、されど10センチ。
自己導尿している患者さん達にそのことを伝えると、さっそくこだわりが強い男性の方から連絡が入った。
「勝手に変えられても困る。今まで通りの管を用意してくれ」
私がカテーテルを作っているのであればともかくも、生産元は海外である。いくらこちらに文句を言われても無い袖は振れない。
電話を替わった看護師。
「無いものはしょうがないじゃない。10センチ長くなっただけでしょう? 長くて使い勝手が悪いんだったら切って使えば?」
おお~、なかなか凜々しい対応である。
どこかのカスタマーセンターから苦情処理係としてスカウトが来そうだな。
それでも、いちいち切るなんて面倒だなどと、なかなか引き下がらない患者に
「それだったら、カテーテルの長さに合うようにち○ち○を引っ張って長くするしかないよね」
勝負あり。
患者は白旗を揚げたようである。