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タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73
「タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73」
「え?」
「いや、タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73」
「え、え?」
「…や、だから!タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73!」
「…もうええわ!」
かれこれ5年近く、それを探している。
探し物をしていると伝えると、一緒に探そうか?と声をかけてくれる友人達には、結局変人扱いされてしまう始末だ。
それは、海の中、噴火口、森林、スーパーマーケット、砂漠、どこにあるかすらわかっていない。また、実を言うとそれがなんなのかすら、自分にもわかっていない。
「どこにあるんだ、タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73…」
今日は、それを求めて隣町までいくことにした。これまでにも数回隣町を探したが、見つかる気配はない。だが、今日はもしかするとあるかもしれない。
リュックサックに水筒と、クマの形をした硬いグミ、財布を放り込み、快速列車に飛び乗る。タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73を探すときはいつも薄く雲がかかり、どんよりとした天気であることが多い。
だが今日は雲ひとつない晴天。電車の窓から差し込む光が、やけに眩しく感じる。
気温も上がり、うたた寝をしている隙に、列車は目当ての駅に滑り込んだ。
そこからは街のローカル線に乗り換える。
文庫本を読みながら待っていると、2両ほどしかない緑色の列車が、アナウンスとともに、ゆっくりとホームに侵入してくる。沿線に観光地があるおかげか、利用者は多く、平日であるのにも関わらず、小さな駅はそれなりに賑わっていた。
人の流れが落ち着いた後にゆっくりと乗り込み、気の向くままにしばらく揺られる。途中トンネルを抜けた後に辿り着いた駅が妙に気になり、何の気なしに降りてみることにした。
改札に切符を入れ、踏切を渡ると、住居と住居の間に微かに水平線が見える。
「海だ!」
テンションが上がった僕は、少し駆け足になってその方角へ進む。
細い道を抜けると、そこには何も隔てるものがない、綺麗な海が広がっていた。
日光が反射して煌めいている。右奥には島と、陸を繋ぐ橋が見える。
「きてよかったなぁ…」
タチバナレッドソーイングデイアキャットオンボード73のことなど、もうどうでもいいかもしれない。そう思わせるほど綺麗な海だった。
続く