お守りのルーツ、麻毛裏(まもうり)を作る
◆ごあいさつ
ドアとあんま見ないポテトチップスの間から失礼します!
谷幽零(たにゆうれい)と申します。
皆さんは辞書を引くことは好きですか?
面倒ですよね〜!
なんでもスマホで検索できる今の時代
私も大きな辞書を引くことはおっくうなのですが、
ポケット辞典を眺めることは好きでした。
今回はそんな私の思い出の辞典に載っていた、
"とある道具"を想像で再現してみたいと思います。
◆麻毛裏との出会い
小学生のときに母からポケット辞典を貰った私は、
暇なときにパラパラとページをめくっては目的もなく眺めていました。
"ポケット"なだけあって、収録されている言葉の数は一般的な辞書よりも少なく、説明もいくらか簡素なのですが、
一般的な辞書と同様、しばしばイラストが挿入された項目もありました。
家に本の娯楽が『ワンピース』とこのポケット辞典しかなかった私は、
イラストのある項目を見つけては絵と説明から想像を膨らませて楽しんでいたのですが、
その中でも特に「麻毛裏(まもうり)」という項目に目を引かれました。
まもーり!?!!!?!?
お守りのルーツがこんな名前だったことにウケた私は辞書を手に一人で笑っているところを母に目撃され、
遠まわしに学校生活で辛いことはないか心配されてしまいました。
◆ないじゃん、麻毛裏!
時は流れ2023年。
なくしたと思っていたポケット辞典を見つけ、ふと麻毛裏の存在を思い出しました。
挿絵ではない、実際の麻毛裏を見てみたいな…と思い、インターネットで検索してみました。
しかしなんと情報がぜんぜん出てこないのです。
実を言うとそんな予感もしていました。
高校入学時に電子辞書を貰った際、「まもうり」で検索したのですが、
そのときも出てこなかったのです。
このポケット辞典はやや古いもの(1986年出版)なので、
当時と今では選出される単語も変わってくるとは思っていたのですが、
まさかネットで検索しても出てこないとは思わず…
手を変え品を変え粘り強く調べていたところ、
1件だけそれらしき情報が見つかりました。
画像が見たかったのですが見れませんでした。
無念…
しかし新たに分かったこともあります。
得た情報を元に、麻毛裏について整理します。
【麻毛裏について分かっていること】
・麻紐でできた印籠型(たわしとも)の道具
・片面から毛が生えているような外見("麻毛"が"裏"から生えている?)
・手に持って落ち葉や小石をはらうのに使う
・江戸時代の旅人が使用していた
・お守りのルーツ?
当時は現在に比べれば道も整備されておらず、
伊勢参宮ともなれば大変な道のりだったはずです。
やはり当時はおまじないとしての役割より、もっと直接的な掃除の機能が求められていたということなのでしょうか。
◆作ろうよ、麻毛裏
前置きが長くなってしまいましたが、ようやく本題です。
画像がないなら自分で作ればいいじゃない!(マモーリ・アントワネット)
というわけで、
僅かな情報を元に麻毛裏を自作し、
実際に自分で使ってみたいと思います。
材料と道具を買ってきました。
当初の予定では右側の麻紐(ヘンプ)で作るつもりだったのですが、
解いてみたところ思いのほかしっかり糸!って感じで今回のようなことは用途には向いていないことがわかったので、
100円ショップで買った麻紐を使うことに。
~麻毛裏のつくりかた(想像)~
なにぶん精細な資料がないため想像で補う部分が多くなってしまうのですが、
数少ない情報から得られる完成品のイメージを元に、
逆算して考えた麻毛裏のつくりかたが以下の通り。
一枚の布のような構造だと手に持ちにくいため、
折りたたむようにして厚みと強度を持たせる作戦です。
また、麻毛裏の"毛"というのは麻紐をたくさん生やしたものだと解釈しました。
そもそも編み物も未経験なので完成品のビジョンがびっくりするほど見えてきませんが、とにかく手を動かして作ってみることにします。
編み物講座とにらめっこしながら、無心で編んでいきます。
途中、「江戸時代の人って編み棒なんて持ってたの?」という至極真っ当な疑問が浮かびましたが気付かなかったことにします。
ひたすら編むこと6時間、ベースとなる部分が完成!
今度はこれに麻の毛を生やしていきます。
3時間ほど格闘して裏面部分への植毛が終わりました。
毛が抜けないように表面部分の生地を縫い合わせます。
最後に裏の麻紐を程よく解いて…完成!
……
キングサイズたわし?
見た目はかなり無骨というか、たわしというか、ちょっとアレなのですが、
とにもかくにも麻毛裏(21世紀版)の完成です!
ここまでずっと茶色いものが画面を占有していましたが、
ここからは外に出ます。青色とか緑色も出るのでお楽しみに!
◆使うぞ、麻毛裏!
遂に麻毛裏が完成しました。
せっかく作ったので、使わないともったいないですよね。
そういうわけなので出かけます!
やってきました!
今回私が行先に選んだのは、神奈川県相模原市にある芸術のまち、藤野!
ここ藤野は川と山々にかこまれた里山であると同時に、まちの各所に大きなオブジェの芸術作品が展示されているのが特徴で、自然と芸術をいっぺんに楽しめる観光地です。
私はこれまでに2度ほど藤野を訪れているのですが、
ここには神社の石段や野外の休憩所など、いかにも麻毛裏の活躍の場がありそうです。
今回の旅行の目的は「麻毛裏を使って快適な旅を実現すること」です!
観光ルートは以下の通り!
芸術作品を鑑賞しながら散策できる「芸術の道」観光を楽しみ、最後に「藤野芸術の家」でガラス工芸を体験します。
芸術の道は一周約6㎞とそれなりの距離ですが、
この麻毛裏さえあれば安全に休息を取ることができるはず!
落ち葉がたくさん落ちています!これは期待できそう…!
いつでも使えるように、麻毛裏を装備して進んでいきます。
藤野駅を出発し歩くことおよそ30分。
ありました!!!!!
いかにもな落ち葉がたくさん乗ったベンチが!
さあ皆さんご注目!
ついにコイツの出番です!!
麻毛裏(まもうり)!!
うおおおおおおおおおおおおお
あっ全然撮れてない…!!
首にさげて撮影できるスマホホルダーを使用したのですが、
リハーサル不足でした。くそ~~~!
めげずに更に少し進んだ先でバス停のベンチが!
今度は映像でお楽しみください。
なんという使いやすさ…!
細かな毛が生えているので、ベンチの隙間に挟まった落ち葉も一発で排除することができました。
これならどんなにごみだらけの場所でも瞬く間に休憩スペースを確保できることでしょう。
麻毛裏さえあれば最悪道のど真ん中でも休めるんだぞ、
という万能感が足取りを軽くします。このまま芸術の道を踏破してしまいましょう!
…
……
…………
いやあっっつ
ちょっとこれ……ダメかも……
(夏のハイキングは十分な準備の上行いましょう)
ヘロヘロになりながら歩いていると、葛原神社の鳥居が見えてきました。
地図によれば、ここを上がれば休憩所です。
気合で登る!
あそこに見えるのは休憩所(屋根付き)!
が…!
なんということでしょう…!
一刻も早くベンチに座りたい谷幽零の前に、
手裏剣が立ちふさがります。
いや…私にはこれがある!
麻毛裏の出番だ!!
うおりゃーーーーーーーーー
きっちり全員片付けてやりました。
このベンチは頂いた!
さて、芸術の道も残り半分!
しっかり休憩したら出発です。
休息を経てひとごこちついたので、作品の写真を撮る余裕も生まれてきました(さっきまでそれどころではなかった)。
個人的にお気に入りな作品がこの『庵(いおり)』。
中に入って解説のプレートを読んでみると、こんなことが書かれています。
かっこよすぎじゃない?
全面サビっサビのこの庵、制作当初は錆びていなかったのです。
平成3年の制作ということで、すでに30年ほどの時を経ていますが、
今もなおこの作品は未来のかたちへ向けて進み続けているのです。
野外の展示だからこそ可能な表現と、"芸術のまち"という町おこしの構想が実現したスケールの大きさには思わずため息が漏れてしまいます。
芸術の道ではこのように、まちや自然と融和する形で芸術作品が展示されています。
みんなも行こう藤野芸術の道!
さて、
麻毛裏のおかげで無事に芸術の道をぐるっと一周することができました。
まだ体力も余っています。
最後に「藤野芸術の家」へ遊びに行きましょう。
つきました。
藤野芸術の家です!
ここはものづくり体験ができる工房と音楽ホール、そして宿泊施設が一体になった"アート体験施設"です。
工房の中は旅行に来た家族や、学校か何かのイベントでやってきた子どもたちであふれかえっていました。
駅で出会った小学生の団体さんはここで宿泊した帰りだったのか!と一人で納得。
時間的にギリギリだったもののなんとか席を確保できたため、
事前に目をつけていたガラスフュージングのアクセサリー作りに挑戦。
工房の閉館時刻まであと少しだったので慌ててしまい、
制作中の写真を撮り忘れてしまいました。
この旅行計画を作ったやつは誰だ!
完成品は後程紹介するのでお楽しみに!
無事すべての予定を終えることができたので、
ゆっくり歩いて藤野駅へ帰ります。
足が棒になってしまいましたが、
無事に藤野駅に到着することができました!やったね!
"麻毛裏と行く!藤野散策"、これにて終了〜!
さて、後半はほぼ藤野旅行日記となってしまいましたが、
こんなふうに有意義な旅行をすることができたのも、
麻毛裏のおかげだったような気がします。
先述の通り私はこれまでに2度、藤野を訪れているのですが、
1回目は芸術の道を一周して力尽きて帰宅、
2回目は芸術の道半ばでバテてしまい、途中のハイキングコースで近道して撤退…といった具合で、
なかなか余裕をもって満喫することができていませんでした。
しかし今回の旅行では、
ベンチや休憩所を探しながら散策した結果、適切に休息をとることができ、
余裕を持った藤野観光を行うことができました。
麻毛裏には単にごみをはらう機能だけでなく、「ちゃんと休息をとるぞ!」という意識を与えてくれる役目もあったのです。
現在のお守りは主に厄払いのために身に着けるものですが、
麻毛裏も同様に、伊勢参宮を行う旅人を長旅の疲れという厄から守ってくれていたのかもしれません。
ありがとう藤野。
また来ます!
◆おわりに
今回はお守りの起源、麻毛裏を作りました。
いかがでしたでしょうか。
少ない情報から想像で作ったものなので、当時のものとは似ても似つかないかもしれませんが、
江戸時代の旅人が麻毛裏を旅のお供としていた理由の一端は感じ取ることができたように思います。
後日、会社から帰宅する途中でこんなポスターが目につきました。
外国の方が日本での「不安・不便さ」を軽減するために提供されている、訪日外国人向けの観光サービスなんだそうです。
知らない世界を歩く際の精神的・物理的な支え。
麻毛裏の意志は、かたちを変えて現代にも残っていました。
こうして、
思い出の小さなポケット辞典を起点とした、
麻毛裏という不思議な道具をめぐる私の旅は終わりました。
最後に、今回の旅にあたって私が制作したものをご紹介してお別れのご挨拶とさせていただきます。
それでは、ここまでお読みいただき、
ありがとうございました!
◆つくったもの
(おわり)
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