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地元の味

仕事がひと段落つき、テーブルに置いているデジタル時計に目を落とすと、19:00を指している。「ご飯食べるか」と心の声が漏れた。

冷蔵庫には具材なし、炊飯器を見ても空っぽの釜があるだけ。

外食するため、財布とスマホを持って家を出る。

僕の住んでいる場所は大阪の中心部で、ラーメン屋さん・有名チェーンのファーストフード店・大手の居酒屋などが点在している。だから、その日の気分でご飯を選べる点は大きなメリットだ。

ただ、近くにある、人の集まる飲食店には行き飽きていた節が否めない。「せっかくだから近くを探索しよう」と、少し寂れた商店街に足を運ぶ。

スマホで時間を確認すると19:30前。時間も時間だからか、ほとんどのお店がシャッターを下ろしている。

看板を見ながら「ここは布団屋…あそこは果物屋…この先は精肉店…」とあたりを散策していると、暖簾のかかる昔ながらのお好み焼き屋さんを見つけた。まだ営業している様子。

中に入ると、カウンターに老夫婦、テーブル席に地元に長く住んでいそうな姉妹の2組が、各々のペースで食事・お酒を楽しんでいた。

「いらっしゃい〜」と声のするほうへ目を向けると、店主である初老の女性が暖かく迎えてくれた。

壁に貼られているメニューに目を向けると「豚玉750円」「海鮮850円」「とん平焼き750円」…など、いかにもお好み焼き屋さんらしいメニューが軒を連ねている。

そこで一番釘付けになったのは「豚玉広島焼き」。自分の出身が広島だからか迷わずそれを注文する。と同時に「広島焼きじゃなくて、広島風お好み焼きだろ」と心の中でツッコミを入れた。

注文後に思ったけれど、「大阪で広島風お好み焼きを注文する広島出身の男性」という、なんともおかしな構図ができてしまった。

一人でツッコミを入れたり馬鹿げたことを考えたりしている間に、大阪で作られた「広島風お好み焼き」がジューっと音を立てながら目の前の鉄板に乗せられる。

折角だからと記念にパシャリ。即座にインスタグラムに投稿。どこからか、「近頃の若者らしい」という声が聞こえたがお構いなしだ。

「いただきます」と小さく声を出し、ステンレス製のヘラで切り分ける。熱々の鉄板の上でお好み焼きを切り分ける感覚が懐かしく「地元を出て以来だなー」と、思い出に浸りながらお好み焼きを口に運ぶ。

甘辛いソース・キャベツの甘み・ほのかに漂うそばの香り、すべてが混ざり合って、舌鼓を鳴らす。

少し経つと店主が目の前にきて「お味はどう?お店に若い子が来るのが久々で驚いているの」と、優しい口調で語りかけてくる。

僕は「広島で食べる広島風お好み焼きに勝る美味しさです」と、自分が広島出身であることを同時に伝えた。

その後は、ありきたりな世間話・僕の地元のことなどを話して、お好み焼きを完食したタイミングで会計を済ませた。

生まれ育った地を離れて1年と少し経つけれども、地元の味はやっぱり忘れられない。あと、初見である自分に優しく声をかけてくれた店主の優しさに心が温まる瞬間でもあった。

地元の味と店主の温かさを求めて、今日訪れたお好み焼き屋さんにはまた訪れるだろうな。。思わず大阪に実家を見つけた気分になった。




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