【第3話】PICマイコンの基本回路
「また大事な事を言い忘れてたわ。」
「さっき見せたPICマイコンだけど。幾つも機種があるわ。見た目の違いは長さやピンの数ね。」
「大事なのはピンの数。ピンの数が回路設計を決めるわ。」
「どういうものを作るか。その回路設計によって必要なピン数が決まるわ。ピン数が決まれば、必要な機能があるマイコンを選ぶの。同じピン数のマイコンならどれでも言いわけではないわ。」
「でも難しく考えなくていいわ。回路設計って言っても特別な前提知識は必要ないわ。例えばLEDを一つだけ点滅させたいっていう回路は思ってるほど簡単に出来てしまうわ。」
「これを見て、まどかのように
すぐ布団に入ってしまいたい気持ちは
わかるわ。」
「これが目指す最終回路なのだけど、
これからこれをまずは綺麗に取り除くわ。」
「複雑に見えるけれど、単純な集まりが一つのブレッドボードに集まってるだけよ。慌てる事はないわ。」
「いきなりごめんなさい。教えるのって慣れてなくて(ファサ…)」
「これは、半田付けしなくても実験的に回路設計が簡単に出来るブレッドボードと呼ばれるものよ。等間隔に無数の穴があるのがわかるかしら?」
「この穴の下には電気が通る金属の板があって、電子部品を穴に挿し込むだけで回路が作れる優れものよ。」
「通電している方向が決まってるのだけど、ここではまだ説明はしないわ。」
「ブレッドボードに挿し込む部品によっては、素手では抜きにくいのもあるわ。」
「その一つがこのジャンプワイヤーよ。白や茶色などのカラフルなものがそれよ。」
「こういう時に便利なのが、このソルダーアシストよ。goot製のものだけど、どのメーカーでも構わないわ。入手が難しいなら耳かきでも代用可能よ。」
「ところで今、私を見て弁慶みたいねって心の中で思わなかったかしら?」
(ギクッ!?)
「ついでだから教えておくわ。手前のオレンジ色の線もジャンプワイヤーよ。先ほどのタイプ同様に最終的には結構な本数を使う事になるわ。」
「その隣の細長い黒いのがPICマイコンね。これはこのまま使うので抜かないわ。」
「奥にも黒い細長いのがあるけれど、出番はもう少し先になるわ。シュミットトリガーICって呼ばれるものだけど、ここでは専門機能に特化したICとだけ覚えて貰うだけで十分よ。」
「今は使わないから、これも一旦ブレッドボードから抜いておくわ。」
「これがPICマイコンを使う為に必要な基本回路よ。」
「あら?そういえば、これから使うPICマイコンの機種を伝えてなかったわ。機種はPIC16F873Aよ。」
「LEDを一つ点滅させるだけなら、28ピンも必要ないわ。でもこれから作るのはデジタル時計。デジタル数字でお馴染みの7セグメントLEDと呼ばれる部品を使うわ。」
「細長いLEDを7つ寄せ集めて一つの部品にしたものね。正確にはピリオド表示もあるから7セグメントではないのだけど。」
「よく見ると、紫色のジャンプワイヤーが2本挿してあるのがわかるかしら?最終的にこの右側部分も使う事になるわ。」
「ブレッドボードに青い線と赤い線があって途切れてる部分があるわ。この部分はこうしてジャンプワイヤーで接続すれば、隣の青い線と赤い線にも通電するわ。」
「察しがいいわね。そう、赤い線と青い線は引いてある方向に電気が流れるわ。」
「赤い線側の穴をプラス、青い線側はマイナス(本来はVddやVss等の表現を使うわ)として使い分けるわ。」
「赤い線と青い線に挟まれていない他の穴は縦方向に電気が流れるわ。PICマイコンが跨いでいる溝には通電しないわ。この溝を境にまた縦方向に電気が流れるわ。」
「PICマイコンの各ピンには4つの穴まで電子部品を挿せるということね」
「こう説明すると制約があって回路設計が難しいって思うかもしれないわ。でも大丈夫よ。挿せる穴が足りないなら、長めのジャンプワイヤーで空いてる穴に繋げばいいわ。」
「ジャンプワイヤーで遠く離れた穴に繋げたい時は、同じ列に他の電子部品が繋がっていないか注意するのは忘れてはいけないわ。」
「繋げ方によってはショートしてトランジスタのように電子部品が魔女化する場合だってあり得るわ。PICマイコンは部品の中でも機種によっては単価の高いものもあるから尚更だわ。」
「説明が少し前に戻るけれど、先ほど見せたPICマイコンの基本回路はどのマイコンでも全く同じではないわ。機種によって各ピンの役割が異なってる場合が多いからよ。だからデータシートを必ず確認する必要があるわ。」
「データシートは、マイコンのメーカーが提供している仕様書みたいなものね。ページ数が膨大だけど、全部読む必要はないわ。」
「まずはデータシートを見てみましょ。
英語だけど慌てる事はないわ。」
「データシートの2ページ目を見てくれるかしら。様々な形のPICマイコンのイラストがあるけれど、これから使うのはPDIPってタイプのものよ。」
「同じ機種でも回路設計によって薄型だったり、正方形のものだったり適切な形状のマイコンを選ぶのだけど、これらはブレッドボードでは挿し込んで使えないわ。」
「これから使うマイコンの形状はDIPって呼ばれるものだけど、ブレッドボードでも使えるとあって入手が容易な形状のマイコンだわ。」
「覚えておいておくとマイコンを買う際に便利だから損はしないはずよ。」
「イラストには各ピンに矢印と英単語らしき表記があるわ。この矢印の向きが大事になるわ。」
「矢印がピンに向いてる場合は、そのピンへ入力として使える事を意味するわ。例えば、スイッチ検知なんかが分かりやすいかしら?」
「矢印が逆にピンから出ている場合は、そのピンが出力として使えるという意味ね。このピンに繋げばLEDが点灯するわ。(正確には一部を除いてだけど、概ねその認識で今は大丈夫よ。)」
「矢印が両方向のものは、入力、出力どちらでも使えるという意味ね。」
「特に矢印が両方向のものは、そのピンを入力用か、出力用かをプログラムで設定する事になるわ。でも難しい事ではないわ。」
「ここで今注目して欲しいのは、イラストに赤丸で囲ったピンね。」
「全て電源関係のピンだわ。一部機種ではないピンもあるけれど、ほとんどの機種では共通であるわ。」
「ピンには番号が振られているわ。1番の左上に⚪︎があるわね。実際にPICマイコンを見ると1番ピンの左上に⚪︎で凹んでいるわ。これが1番ピンの印よ。」
「14番から折り返す形で15番から28番まで振られているわ。ここは注意ね。」
「まずは1番ピンね。MCLRってあるけれど電源投入後にリセットする為のピンよ。PICマイコンは電源投入後は不安定な状態があるので、安定させる為の機能ね。」
「パソコンの電源入れてもすぐには使えないわ。OSが動作に必要なファイルを読み込むみたいな感じかしら?」
「リセットしないと、PICマイコンの正常動作は期待出来ないわ。この1番ピンには電源のプラス側に接続するのだけど、1番ピンとの間に抵抗を接続する必要があるわ。さもないと魔女化よ。」
「次は8番ピンね。Vssってあるけれど、電源のマイナス側ね。GND(グラウンド)て表記する場合もあるわ。意味は同じよ。」
「ブレッドボードの青い線側に穴に直接ジャンプワイヤーを接続するわ。」
「19番ピンにもVssがあるけれど、これは接続してもしなくても構わないわ。」
「大事なのは20番ピン。これは電源のプラス側から直接ジャンプワイヤーで接続するわ。」
「これで先ほどの8番ピンとで、乾電池でプラスとマイナスで豆電球が点灯するみたいに、PICマイコンには電気が流れるてるはずよ。」
「これで電気が流れるようになったけれど、それで発生するノイズが動作の障害になる場合もあるわ。」
「そこでセラミックコンデンサの出番ね。結構使う事が多いから多めに用意しておくのをお勧めするわ。これを20番ピンと19番ピンに跨いで接続するわ。」
「ここで使う電子部品の整理をしておくわ。」
「ジャンプワイヤーね。針金に樹皮カバーしたタイプとコード状のタイプがあるわ。どちらも本数にしたら、40〜50本くらいあるといいわね。」
「カーボン抵抗って呼ばれてるものね。抵抗と言っても素材も大きさも様々なものがあるわ。ブレッドボードや実際に半田付けして作る回路では良く使われる一般的な抵抗ね。カーボン抵抗も大と小の2種類があるわ。これは回路によって好きに使い分ければ大丈夫よ。」
「セラミックコンデンサね。村田製作所がメーカーのものだけど、容量も多種多用よ。良く使われるのが電源ノイズ除去で使われる0.1μFね。後は時計で欠かせない水晶発振子を発振させるのに15μFが主流かしらね。」
「7セグメントLEDね。ピリオドも含めて8つのLEDが一つに集まったものね。10本のピンはそのままブレッドボードにさせるようになってるわ。」
「これは後で大事な事だから伝えておくわ。この7セグメントLEDにはタイプが2つあるわ。アノードコモンとカソードコモンよ。」
「LEDの寄せ集めって言ったのは、電気の流れる向きによって、7セグメントの点灯・消灯の動作が決まるからよ。」
「後で説明するLEDでも出てくるけれど、先にこの事を覚えておいて。」
「電気はアノードからカソードの方向に流れるわ。」
「カソードコモンって呼ばれるタイプはこのアノードからカソードに流れる向きでLEDが点灯するわ。PICマイコンとこの7セグメントLEDを接続した時に、PICマイコンから出力された場合に点灯するわ。」
「アノードコモンの場合は逆ね。PICマイコンに入力された場合に点灯するわ。」
「プログラム作成に慣れない最初のうちは直感的なカソードコモンを強く勧めるわ。」
「今回の説明でも、カソードコモンを使うわ。」
「トランジスタね。トランジスタには3本の足が出てるけれど、接続した2本を残りの1本がトリガーとなって電気が流れる電気的スイッチの役割を果たすわ。デジタル時計の作成過程で後々この部品の役割が分かるようになるから今は焦らなくても大丈夫よ。」
「そうそう、抵抗はブレッドボードに挿す時は、予めこうして折り曲げておくといいわ。」
「今回はこの辺にしておきましょ。あまり遅いと布団で待ってるまどかが心配しちゃうわ。」
(つづく)