効果的な学振申請書の書き方
導入
学術振興会の特別研究員制度(DC1/DC2)の書き方について自分なりにキーポイントだと思う点をまとめていきたいと思います(2024年時点)。
DC1/DC2に採用されているかどうかは経済面だけでなく、研究費の獲得経験という点で企業やアカデミアポジションでの就活に役に立ちます。
今まで何枚か申請書のアドバイスをしてきましたが、せっかくなのでnoteにまとめてみたいと思います。
ここでは他の応募者と差をつけれるTipsではなく、減点されにくい書き方を共有していきます。これは自分なりの意見ですが、参考になれば幸いです。
申請書の書き方
全体的なこととしてフォントなどの書式についてですが、見やすければなんでもよいと思います。適度にボールドやパラグラフごとに字下げを使いましょう。もちろん図も適宜入れましょう。
【研究の位置づけ_当該分野の状況や課題等の背景】
他分野の方が目を通しても、イメージしやすい文章を心掛けましょう。
自身の研究内容に係るアカデミックな背景と、社会背景を織り交ぜながら過不足なく論述しましょう。研究分野のどのような部分が不明なのか、それが明らかになればどのように社会貢献ができるのかについて考えながら書いていきましょう。特にフォーマットはないと思いますが一番大切な部分です。論文で言うカバーレターみたいなものですからね。できるだけ反芻しながら完成させてください。
(例)
「日本では~~~が社会問題として挙げられる。この状況を改善するには、~~~の開発が急務である。」
【研究の位置づけ_着想に至った経緯】
ここでは研究内容の背景について掘り下げて書きましょう。
Preliminary Dataを必ず入れましょう。ここで全くDataがなければ実現可能性が低いと判断され、大幅に減点される可能性が高いです。超有名ラボに所属していない限りPreliminary Data無しで戦うことは不可能です。
書く内容で意識すべきことは、研究課題について何をどこまで明らかにするのかを明確に書くことです。自分の場合は目標を2つ書きましたが、多すぎても実現可能性に影響が出てくるので3つまでくらいに思っていればよろしいでしょうか。
【研究目的・内容等_研究目的】
研究計画の本文の書き方について自分なりにポイントを紹介します。私は【研究目的】、【研究方法と内容】、【先行研究との比較による本研究の意義】、【完成時のインパクト】、【所属研究室の研究活動の一部として申請者が担当する部分】に分けて書いたので今回はそれに沿って解説します。
最初の【研究目的】は端的に書きましょう(目安3~4行程度)。
(例)
「~(解析法の具体例)~など種々の解析により○○○を明らかにする(←研究の位置づけで書いた目標)」
「△△△(解析法の具体例)や、最新の◇◇◇(解析法の具体例)により○○○の開発を目指す(←研究の位置づけで書いた目標)」
【研究目的・内容等_研究方法と内容】
小見出しなどを適宜使ってわかりやすく書いてください。ここでも重要なのが実現可能性です。特にチャレンジングな実験の場合はバックアッププランを必ず記載してください。これの有無が採点者の評価にかなり影響します。またこれを書く際は、「また、バックアッププランとして○○○を並行して行う」と明確に書いてください。
タイムラインを図で差し込んだ申請書をたまに見かけますが、スペースがもったいないと思うので、個人的にお勧めしません。代わりに、以下のようにしてみてはいかがでしょうか。
(例)
1.○○○KOマウスの表現型解析(←中見出し)
1-A.△△△機能評価 (採用前)
~~~~~~
1-B.△△△の観察 (採用前~採用1年目)
~~~~~~
【先行研究との比較による本研究の意義】
研究の特色・独創的な点について書く場です。ここはかなり難しいですが、一つは見つかるはずです。頑張ってひねり出しましょう!
(例)
「(既存の解析法)と比較し、(新規の解析法)は低予算かつ短期間で行うことができる。」
「(既存の解析法)はin vitroで行われているが、本研究では~~のため解析が難しい。そこで本研究では(新規の解析法の提案)を行い、in vivoで解析することで、~~を明らかにする。」
【完成時のインパクト】
ここでは自分の研究課題が完遂した際にどのように社会実装につながるかについて、端的に記載してみましょう。できる限り具体的に書ければベターです(目安5~7行程度)。
【所属研究室の研究活動の一部として申請者が担当する部分】
自分がどの範囲で研究活動を行うか明記しましょう。共同研究者がいる場合はどの実験を誰に依頼するか記載しましょう。ポイントを挙げるとしたら、所属研究室の強みを書いて実現可能性があることをアピールしましょう。
(例)
「所属研究室はこれまでに~~~を明らかにしている(主なラボの研究業績を引用)。本研究は以上の知見を活かし、申請者自身が中心となって研究活動を進める。」
【研究遂行力の自己分析_研究に関する自身の強み】
研究計画を書いたあとは自身の研究能力を説明していきましょう。
まず、研究業績を箇条書きして業績欄を完成させましょう。その後いくつかに項目を分けて、自身の研究業績を引用しつつ書いていくと分かりやすくて良いと思います。
例えば以下のような点について分けて書けばよいかと思います。
【主体性や実験の技量】
【知識の高さ】
【発想力や問題解決能力】
【コミュ力やプレゼン能力】
各項目について、エビデンス(業績)を示しながら書く必要があります。
例えば、筆頭で論文があればその論文について簡潔に説明し研究の主体性を示しましょう。またその際に使った技術を紹介し、先の研究計画でも応用できることをアピールすることで、技量を保証すると同時に実現可能性の高さも示すことが出来ます。共著であっても同様になんの実験に関わったのか書くとよいとおもいます。
意外かもしれませんが知識の高さについて書くことはかなり難易度が高いです。この場合の知識は研究に求められる知識をアピールするとベターです。学部時代のGPA(成績)は、表彰されたり学部代表で卒業したりでもない限り記載する意味は殆どないと思います。ここでは、ラボでの経験(専門書の輪読会に積極的に参加していことや、セミナーでたくさん質問していること、日頃から専門分野の論文を読んでいることなど)について書くと比較的無難化と思います。ただここで他の候補者と差をつけることは難しい気がします。
次に発想力や問題解決能力は自分が筆頭または共著で携わった論文について、何を改善することでどのように解決できたのかを簡潔に述べると良いと思います。
最後にコミュ力やプレゼン能力はラボでのセミナー経験や口頭発表やポスター発表の経験を通じてどのような能力を身につけたのか記述していきましょう。
【研究遂行力の自己分析_今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素】
直前の【研究関する自身の強み】とは異なり、ここでは自身の弱みを書きましょう。当たり前ですが、「弱みの自己分析→改善する試み」の順で書きます。英語力を弱みとして書く人が多いですが、なぜ英語が必要なのか考えながら書きましょう。また、英語は2次的な能力に過ぎないので研究力に直接かかわるような弱みも必ず入れるようにした方が良いと思います。
【目指す研究者像等】
ここの項目も自由度高く書くことが出来ます。SNSなどでよくこの項目は「ポエム」などと揶揄されていますが、サイエンティフィックな論理展開を心がげけて下さい。申請書を読み直して、ポエムだと感じた場合は改善の余地があります。そのため論理的に記述できるかどうかで差がついてしまう、非常に重要な項目だと思います。
先の【自己分析】の項目と同様に強みや弱みを書いても構わないかもしれませんが、冗長だと捉えられかねないので少し方向性を変えた方がよいかもしれません。ここでは10年後に自分がどのような研究者になりたいか考えて書くことをお勧めします。
「(1)目指す研究者像」と「(2)上記の「目指す研究者像」に向けて、特別研究員の採用期間中に行う研究活動の位置づけ」はワンセットで書きましょう。
(1)目指す研究者像について
申請書の注釈(※目指す研究者像に向けて身に付けるべき資質も含め記入してください。)にもある通り、ここでは資質を3つ程度列挙しましょう。挙げた資質の一つ一つについてより具体的に掘り下げていきます。
うち一つについて、当該分野を目指したきっかけや夢・具体的な目標について書くと良いです。夢ばかりを書くとすぐにポエムになってしまうので、過不足なく簡潔に書きましょう。
また、ロールモデルとして実際の研究者(世界的に著名な研究者にする)について言及することも一つの手で、スマートだと思います。しかしながらうまく活用するのは難しく、その研究者がどのように卓越しているかを端的に説明する必要があります。個人的には「独創性」を身につけるべき資質として挙げた場合に書きやすいと思います。
(例)
「私は(資質①)(資質②)(資質③)を兼ね備えた研究者を目指します。
研究者として(資質①)を身につけることは~~~を行う上で、より高いレベルの研究を行うことに役立ちます。~~(具体的に掘り下げる)~~。
また、(資質②)についても身につけることが重要だと考えています。~~(きっかけや夢、将来の目標など)~~。~~~を通じて社会福祉に貢献したいと考えています。
最後に(資質③;独創性がお勧め)も必要だと考えています。独創性とは~~~。この独創性を身につけることで、将来~~~にもつながると考えられる。~~(ロールモデルとして研究者を挙げて説明)~~。彼/彼女は~~~をすることで当該分野の革新に貢献しています。~~(その研究が自分の研究とどのようにリンクしているか説明できるとより良い)~~。将来は彼/彼女のように当該分野の研究基盤or技術基盤をつくることを目標として、研究に取り組みます。」
(2)上記の「目指す研究者像」に向けて、特別研究員の採用期間中に行う研究活動の位置づけ
「(1)目指す研究者像」で列挙した資質と一対一対応で、採用期間中にどのようにして挙げた資質を身につけていくか具体的に書いていきます。ここでもう一つ重要なのは、すべて未来形で書かないことです。採用前から既にある程度取り組んでいることを必ず含めて書いてください。
(例)
「~~(取り組んでいること・取り組みたいこと)~~。これらの研究活動を通じて(資質①)を身につけます。
~~(取り組んでいること・取り組みたいこと)~~。上記の研究活動では(資質②)の能力を養います。・・・」
最後に
学振制度で支給される研究費は税金が基になっています。学振に通ることがゴールではありません。自分の研究が税金を使って行うことに足ることなのか考えながら書いてください。
この記事が申請書作成にお役に立てれば幸いです。