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物語は強く、危うい

「ゲーム・オブ・スローンズ」を最終話まで見終わった。何を今さらというのはごもっともだが、ご存知ない方、すっかり忘れてしまった方向けに簡単に説明すると、目立つキャラたちがあの手この手で七王国を統一する王になるために四苦八苦する、ファンタジーあり、政治あり、戦争あり、ゾンビあり、恋愛ありの何でも詰め込んだようなストーリーだ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』(原題:Game of Thrones、略称GOT[2])は、ジョージ・R・R・マーティン著のファンタジー小説シリーズ『氷と炎の歌』を原作としたHBOのテレビドラマシリーズ。中世ヨーロッパに類似するがドラゴンや魔法が存在する架空の世界において、多くの登場人物が入り乱れる群像劇である。北アイルランド、マルタ、クロアチア、アイスランド、モロッコ、スコットランド、アメリカ合衆国、スペインで撮影されている。2011年春から放送が始まり、最終話は2019年5月19日に放送された。
(出典:Wikipedia

なぜ今「ゲーム・オブ・スローンズ」なのかというと、友人との会話の中で偶然話題にあがったことがきっかけである。実は、シーズン6まで私はしっかり観ていた。あまりにも物語が続くので、「いつまでやるんじゃい」と途中で投げ出したタイプの人間だ。以降、2019年に終わったことすら認知していないほどの忘れっぷりだった。

シーズン8までで物語が終わることを友人から聞き「あとちょっとで観終わるやないか」と再び見始め、そしてついに物語が完結した。「なるほど、そういうラストだったか」と。こうした物語は、友人とさまざまな解釈を、またそれぞれのキャラについての思い入れなどをぜひ語り合いたいものだ。

ところが、2021年の春に「ゲーム・オブ・スローンズがさぁ」と語って、同じ熱量で語れる人はそういないだろう。今もなお語れる人はむしろ熱狂的なファンである可能性があり、それはそれで困る。私のように、たまたま視聴し終わったタイミングが今だったというだけのにわかファンはそう多くないだろう。

この世で物語以上に強力なものはない

「ゲーム・オブ・スローンズ」の最終話で、ティリオン・ラニスターはこう言った。

「人々を団結させるものとは?軍?金?旗? …物語だ。この世で物語以上に強力なものはない。誰にも止められない。」

「物語(ストーリー)は最強やね」と言って、いい感じに場が収束していくわけだ。それは一つの真理であると思う。物語を共有すること、それは感情成分多めの人間という種が、大規模な単位で分かり合うためのほぼ唯一の手段だろう。ドラマの中では、感情との整合性が取れなくなったとき、危機的状況で合理的な意見をする賢人はほとんど殺されてしまった。最後は感情が優先されたのだ。合理性よりも、人々と感情や価値観を共有する物語のほうが強いエネルギーや大勢の人間を動員できる。

何もドラマに限らず、現実社会もまた同じだなと思った。現代社会では、科学がまるで宗教の神のように絶対的な振る舞いをしているが、一方で科学には物語不在である。科学に物語を持ち込んでしまっては、科学は成立しないからだ。平時であれば、科学的根拠を振りかざすことで、合理的にものを見れない人間を簡単に黙らせることができる。ところが、大衆のコンセンサスを得なければならないような有事の際に、科学は脆い。科学的な説明は、大衆にとってピンとこないのだ。ともすれば、建設的な「議論」になどなりえない。

物語は強く、危うい

昨今のウイルス騒ぎはその典型例である。大きくは次の3つのグループがある。①ファクトを大切にする人々、②絶滅するかのような生命の危機という物語を信じる派閥、③根拠なく「風邪みたいなもんでしょ」という物語を信じる派閥。

①は少数である上に、ファクトを自分なりに解釈した上で②や③、または②と③の間にバラバラと属することになる。つまり、①は事実上、グループを形成していない。どうしても、②命危ない派と③大したことない派の極端な二極化が起こってしまう。

なぜ②と③はグループとして存在できるのか。それは、彼らが物語を共有しているからだ。殺人ウイルスに世界が滅ぼされる物語か、風を大ごとと勘違いして騒いでいる物語か、それぞれ別の物語を信じている。それぞれ多くの人間を動員している。

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