君たちは現金を超えられるか 〜イベントにおけるオンライン決済に関する所感 in 福岡 〜
当日現金払いストレス
2019年、ぼくは福岡市内に住んで、かれこれ13年目になる。
福岡市内で開催されるイベント、特に50名未満(ときには100名程度)の規模感において、現金主義が蔓延している現状があると感じている。
現金を扱った受付作業の非効率さには、個人的に納得しがたい思いである。
(受付スタッフの手際の話ではなく、その体制について。)
これは福岡市内特有のことなのか、それとも他県でもそうなのか、日本中がそうなのか、世界では一体どうなのか。
イベントにおける現金を扱うことの非効率さに、こんなにも強いストレスを感じているのは自分だけなのではないかというある種の孤独感から筆を執った次第である。長文だが、イベントにおける当日現金払いに憤りを感じている方が、もし地球上にいるならぜひご一読いただきたい。
当日現金払いとは、つまり何なのか
まずは、イベントの参加費の支払いが、当日受付による現金払いであることのデメリットとメリットについて述べたい。不公平にならぬよう、4つずつ出してみよう。
<メリット>
1.気軽に参加できる(イベント参加者)
参加者が、参加するか否かを受け付けを通り抜ける瞬間まで自由に選べる。最悪、直前に行きたくなくなっても簡単にドタキャン可能。
2.現金がその場で手に入る(イベント運営者)
当日入ってきたお金を使って、当日に発生する費用(会場など?)をそのまま収めることができる(ただし、販促物など事前に費用がかかるものについては、事前に現金は出ていく)。
3.受付でコミュニケーションできる(参加者&運営者)
イベントは、その日「初めまして」ということも多々ある。中には、不安を抱えている人もいる。受付時にスタッフ(人)とコミュニケーションをとることで安心感につながる可能性がある。
4.手数料がかからない(参加者&運営者)
現金払いなので、集金の手数料がかからない。
<デメリット>
1.現金の受け渡しの作業とその時間(参加者&運営者)
受付時、参加者が現金を取り出し、渡し、スタッフが数え、おつりを渡すという一連の流れは、絶対に発生する作業であり決して回避できない。また、全員が全員効率的にできるわけではないことも考えると絶望的に非効率。
2.受付で待たされる(参加者)
参加者の来場時間が被ってしまうと、受付で列ができてしまい、参加者は待たされることになる。
3.お金を数え間違える(運営者)
人間による手作業になるため、もらい忘れやおつりの数え間違いなど、誤差が出るおそれがある。
4.お金の保管(運営者)
不特定多数が集まる場において、まとまった現金を、しかもセキュリティ甘々なまま、裸銭でイベント終了時まで保管する危険性と労力。
こうしてみると、気楽さ(物心両面の柔軟性の高さ)がある一方で、仕組みにおけるホスピタリティが低く、リスク管理が行き届いていないように感じる。のは、ぼくだけだろうか。
上記のメリットとデメリットを見たときに、それでも現金のほうがメリットが大きい場合にのみ、当日現金払いを選択するのが合理的というものだ。
人間はまるで合理的でない
しかし、多くの人は合理性で物事を判断しない。実に、多くの人が感情で判断しているように思える。
たとえ合理性において現金のデメリットがメリットを上回ったとしても、現金払いがなくなる気配が福岡には感じられない。
スマホがこれだけ普及している現代、さまざまなサービスがある現代、イベントをオンライン決済にすることは、いとも簡単にできる。それでもオンライン決済が主流にならないのは、「現金がいいんだ!」というイベントの参加者心理、運営者心理が働いている。
知らないことは、こわい、めんどくさい
2016年、ぼくはRethink FUKUOKA PROJECTというイベントを企画開催するチームに加わり、約6ヶ月間その運営に関わった。
毎週水曜日、書店やカフェでトークイベントを開催。
イベントは、30〜50名規模。企画やゲスト、トーク内容は濃かった。福岡で接する機会のない方々のナマの話が聞ける貴重な機会だった。いい意味で東京っぽかった。
たとえば、CAMPFIREの家入一真さん、ULTRA JAPANの小橋賢児さん、Webライターのヨッピーさん、安藤美冬さんなど興味深い方々に登壇していただいた。満員御礼となることも多々ある、好評を博したプロジェクトだった(運営の皆さん、その節はお疲れさまでした)。
実は、運営の裏側で面白いことが起こっていた。
イベントの申込みはPassMarketでオンラインの事前決済に限定していたのだが、現金払い希望の問い合わせが数多くあったのだ。受付の問題などもあり、運営の煩雑化を避けるため最初はこちらも渋っていた。
だが、イベント開催日が近くなってもPassMarketから全然申込みがなくて、これではまずいとやむなく現金を許可した。決済方法を現金可にした途端、すぐに満員御礼となった。
こうして、Rethinkでは、受付で現金を回収するスタッフが常時必要になった。
結局は、よく分からないオンライン決済なんてしたくないのだ。
もっと言うとAmazonなら「みんなやってるから」いいけど、イベントチケットのオンライン決済は「みんなやってないから」イヤなんだろう。
そこには合理性のかけらもない、ただの感情論があるのみ。
イベントは「コト消費」。決済でさえも普段よりことさら感情で行いたいのかもしれない。
イベントを開催しよう!
ぼくはバンド活動を行なっている。
今年の春にディナーショーを演る予定でいる。
従来の、ステージをずっと観るようなライブに行きたがらない自分が、人様にじっと観ていただこうなどという気持ちにはなれなかった。もっと気楽なものにしたかった。
いわゆる、ザ・ディナーショーではなく、欧米の飲食店のBGM代わりに生演奏が鳴っているようなイメージ。
カフェを貸し切って、コース料理と飲み放題のついでにライブがついてくるという感じにしたい(この辺は別記事にあらためて書こうと思う)。
そういうイベントをやろうと思うと、会場となるカフェは料理を人数分用意しないといけない。端的にいうと、結婚式の二次会で店を貸し切るのに参加人数を事前にきっちり把握して伝えるのと同じような作業が発生する。
これは、普通ライブハウスを借りるときには起こりえない感覚である。結構リスキーでめんどくさいことなのだ。何が困るってドタキャンである。
結婚式の二次会ならまだよい。おめでたさとその日だけの特別感があるので、出席確認は仮にSNSでの連絡であってもドタキャンされるリスクは低い。
けれど、無名バンドのディナーショーならどうだろう。ぼくなら迷わずドタキャンするだろう。終業時、1ミリでも疲労感を感じていたら、残業になったフリをして欠席するに違いない。
たとえば、3,000円のチケット代で30名の予約があったとする。お店に事前に伝える。つまり、事前に「9万円はお約束します」ということである。
そして、当日、蓋を開けてみたら、ぼくのような人間がいてドタキャン祭りだったとしよう。
さすがに、お店側に「お客さん来ませんでしたね。すいません。」では済まないだろう。自腹で補填することになる(最悪、食材も廃棄することになってしまう)。
何なんだ、このリスク…。
前半で書いた、イベントの当日現金払いのデメリットの事情を遥かに凌駕するデメリット!
そうだ オンライン、行こう
往々にして、バンドマンという生き物は、来るか来ないかわからない「行けたら行く」みたいな人たちを予約リストに書きがちだ。
このディナーショーでそんなことをしてしまったら、もはや趣味:自腹である。
いろいろ考えた結果、このイベントのチケット購入はオンライン決済にしてしまおうじゃないかと。
そしたら、事前にお金も確約できるので、仮にドタキャンがあっても問題ない。それにすでに支払っているのだから、終業時1ミリぐらい疲労感があったって参加しようとするだろう。それに前半で書いた、現金のデメリットも回避できる。
オンライン決済とは、イベントにおける資金の回収リスク、ドタキャンリスクを限りなく下げることのできるウルトラCなのである!!!もはや、愛してる!!
現金を超えられるか
というわけで、意気揚々とオンライン決済をバンドメンバーに提案したら、却下された。
「現金じゃないと人は来ないよ」と。
「21世紀に一体何を言ってるんだ、この原始人が!」と罵った後で、ディナーショーに声をかけた友人たちもまた口を揃えてオンライン決済を嫌悪した。現金がいいらしい。
ぼくにとっての当たり前は、君にとっての当たり前じゃない。キリスト教を初めて伝導するために異国に降り立って2日目ぐらいの気分である。
現金、お前、強ぇよ。
決済の壁
そして、今現在に至る。
そろそろ、イベントの告知を開始したいと思っているのだが、決済方法が決まらないという事情で告知を開始できない状況にある。
正直、助けてほしい。
状況を今一度整理する
ディナーショーのチケット購入を、当日現金払いで行なった場合と事前にオンラインで行なった場合の最も大きいメリット、デメリットを簡単に整理する。
<現金メリット>
参加者の心理的ハードルが低い。
<現金デメリット>
運営側の当日の現金管理の手間とリスク。予約者ドタキャン時、運営が完全自腹のリスク。
<オンライン決済メリット>
運営側に集金漏れなどがない上、当日に一切現金を扱わなくてよい。
<オンライン決済デメリット>
(参加者によっては)とてもめんどくさい感じがする。
こうしてみると、ここに書いた現金のデメリットは運営側にあり、オンライン決済のデメリットは参加者側にあることが分かる。
利害が相反するとなると、もはや誰にどれぐらい寄せた設定にするかである。それ以上もそれ以下もない。
もしも、ぼくが米津玄師なら迷わずオンライン決済でよい。「オンライン決済で申し込む人だけ来てくれたらそれでいいよ」というスタンスでいく。余裕でソールドアウトするだろう。オンライン決済をやったことがなくたって、ファンならそんな壁は容易に乗り越えてくれるだろう。
しかし、ぼくは無名のバンドマンである。
もしも、「オンライン決済で申し込む人だけ来てくれたらそれでいいよ」というスタンスでいたらどうなるだろう。
ディナーショーというよりか、もはや営業時間外のカフェで大きな音を出している人にしかなりえない。
こうして文章を書きながら、答えは半分見えてきたような気がするのだ。
誰に寄せていくのか。
つまり、ディナーショーを中止しよう。
君たちは現金を超えられるか
福岡のイベントでは、オンライン決済が当たり前になる様子は見当たらない(米津玄師を除く)。
非効率に思えるこの状況にげんなりする一方で、そうした現状に迎合を強いられる力ない自分自身にはさらにげんなりしている。リアルでの活動に、若干やる気が失せてきた。
そういえば、近年、東京の人が福岡に来てイベントを開こうとするケースが増えており、ぼくもお手伝いさせていただくことがある。
そのほとんどがオンラインでの申込みを当たり前のように推奨し、そして、苦戦する。
福岡のイベント決済事情は例外なのか?
東京のイベントはオンライン決済が当たり前なのか?
その他、みんなの街のイベントは、オンライン決済が根付いているのか?
我々日本人は、現金の呪いから一体いつ解かれるのか?
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