見出し画像

アフターコロナでサラリーマン事業承継は変わるのか 〜2.『買う承継』って何?〜

■前回の振り返り

 アフターコロナで加速するであろう事業承継。しかしながらサラリーマンにはまだまだ情報が少なく、志はあっても実行に移せない、どこから手をつけてよいのかわからない人もいらっしゃいます。そこで実際に案件に関わった経験を元に、改めて事業承継について考えます。
 今回はwebサイトで取引されることの多い『買う承継』についてお話します。

■『買う承継』って何なのか

この記事の『買う承継』とは、ビジネスの仕組みや環境(いわゆるパッケージ)を購入する意味合いが強く、webサイトの事業や売り手だけで運営している店舗の売却がこれに該当します。webで取引されている案件はこの手の案件が多く存在します。
ちなみに、私の初めての案件は、特定業務に特化したソフトを販売する会社の売却案件でした。あまり出てこないような、少し特殊なケースと言ってよいと思います。

『買う承継』の場合、居抜き物件のイメージに近く、ご自分で似た事業の経験がある場合はチャレンジ出来る案件かと考えます。しかし、未経験の場合は、承継ではなく『起業』を選択肢に入れて考えましょう。

■あえて承継を選ばない選択肢もあります

 起業するのであれば、必要最低限の初期費用で始めて、軌道に乗ったら少しずつビジネスを広げるという展開が望めます。もし、展開が難しく撤退を考えるなら、最低限のスタートなので低リスクです。(飲食の場合は当てはまりませんので注意が必要です)
 しかし、承継の場合は、当然ながら事業継続が可能なレベルで始めるので、自分がオーナーとなった瞬間から『維持費』を買い手であるあなたが負担することになります。また売り手に支払う『事業購入費用』も最初に支払うことになります。実際の場合、事業購入費用の支払いについては、いろいろやり方がありますが、最初にまとまったお金を支払うのは避けて通れません。
 すでにビジネスプランが決まっているけど、準備するのに時間が惜しい、ビジネスチャンスを逃してしまう、というお考えでしたら『買う承継』をオススメします。

 例えてみましょう。
 あなたはハンドメイドのアクセサリーを趣味としていました。センスが良く、丁寧な作りでお友達の反応もよく、フリマアプリや実際のフリーマーケットでも、そこそこの販売数がありました。
 ご自分の作品に手応えを感じたので、販売する事業を立ち上げようと考えて行動を開始した……としましょう。

 起業する場合、『先手必勝』とばかりにすぐに始めても良いし、準備をするだけして、運転資金や販売出来る作品を充分に貯めてから事業を始めても特に影響はありません。事業開始は自分で決めることが出来ます。
 開始に当たっての設備は、自宅を事務所にして、通販業務用にそこそこのスペックを持ったパソコンと、今まで使っていたハンドメイドの道具程度です。販路を得るためにwebショップ開設などが必要かもしれませんが、SNSを活用したり、工夫しだいで費用は抑えられます。
 ハンドメイドであるがゆえに、製作スピードの兼ね合いで地道にやりたいのであれば、小さく起業するのが無難なのではないでしょうか。

 一方、承継の場合は、条件は案件次第ですが、店舗があったり、webショップの仕組みが最初からある状態です。お客様もある程度ついている状態かもしれません。その点では立ち上がりは早いでしょう。ただし、売り主から権利が移ったその瞬間から、事業は開始されるのです(承継ですからね)。店舗であれば、家賃や光熱費、バイトさんがいる場合はその人の給料、webショップであれはポータルサイトの加盟料など、もろもろのお金をお店の売上からあなたが支払わなくてはいけません。その上、購入資金も売り手に支払う必要があります。
自身の作品だけでなく他者の作品も取り扱いたい、製作をある程度任せて量産して販売したい、あるいは突然自分の作品がバズって、問い合わせがたくさん来ている、というお話であれば、承継という選択肢もアリと思います。

■承継の場合、気をつける点は?

 ご自身の事業をデザインする過程で承継するという選択をした場合、当然のことですが、売り手が存在します。
 これもまたケースバイケースですが、秘密保持契約を締結して、交渉開始したら、下記のことに気をつけて、納得いくまで確認しましょう。
 『買う承継』の場合はパッケージを売るという要素が高く、購入後の売り手のサポートは無いものと考えておいた方が無難です。買うとは言っても物体ではないので、買った後に返品などは出来ませんし、売り手は売却後ですと、よほどの愛着でもなければ買い手にコンタクトはしないでしょう。
 きっと売却資金で新しいビジネスでも立ち上げるでしょうから、買い手に時間はかけたくないはずです。

◯確認ポイント
  ・事業売却総額    → 「後出しジャンケン」を予防しましょう
  ・仲介料      → 成約後の支払金額とスケジュール
     ・財務諸表     → 経営指標ですが、提示出来ないことも
  ・ランニングコスト → 把握していないこ場合も
  ・事業の権利は誰か →  「仕組みの使用権だけ売る」というケースも
  ・売却後の支援   → いつまで支援があるか、あれば有償かどうか
  ・他の候補者    → すでに交渉がまとまりかけていることも
  ・売り手の評判   → 過去にトラブルを起こしているケースも

 ざっとこんなところでしょうか。仲介サイトによっては、直近の財務諸表がデータとして掲載されていますので、参考にしましょう。
 本などでは「デューデリジェンス(事業の資産価値分析)」が強調されていますが、サラリーマンが『買い承継』するにおいては、個人的にはそれほど重要度は高くないと考えています。
 実際に売り手にコンタクトしてみると、webサイト運営の承継案件で「仕組みを作っただけで、ほとんど何もしていないので利益ありません」と回答されることが少なくありません。似たような回答として「今は売り手が別の事業に忙しく、休眠状態です」というのも頂きます。

 むしろ、小さい事業であるがゆえに、概算でも良いので売却総額をキチンと確認し、売り手側の提示漏れがないか、購入後は事業の権利がどこまで自分に渡るのか、店舗であればリース物件の有無などを確認し、案件を進めるか判断した方が良いです。
 そして、どうしても不安が払拭出来なければ、断る勇気を持ちましょう。その事業をあなたが必ず買わなければならない理由はありません。

 財務諸表は交渉の材料に使うくらいに思っていたほうが無難で、財務諸表の分析の時間があるなら、案件売却におけるイニシャルコスト(初期費用)とランニングコスト(維持費用)の分析に時間を振り分けた方が買い手にとってはプラスでしょう。

 また、案外抜けがちなのが、成約後に仲介サイトに支払う仲介料。案件ばかりに目が行きがちですが、利用規約に『成約した場合はサイトに売り手と買い手から○日後までに報告書を提出し、買い手は成約手数料として売買金額の数%を支払うこと』等が書いてある場合があります。守らない場合は成約自体が無効になる可能性もあるので、サイト利用する時は必ずチェックしておきましょう。

■次は『継ぐ承継』についてです

 いかがでしょうか。サラリーマンの私達に取って、売却金額は決して安くはありません。そして自分の才覚で可能性が変わる、未来の見えないものを買うのです。しかも案件によっていろんな表情を持っています。慎重に慎重を重ねた方が無難です。
 決して、慌てないようにしましょう。もし案件が不発でも縁がなかっただけなんですから。


記事のお問い合わせ、サラリーマン事業承継のご相談はこちら
jsyokei.y.tukada@gmail.com

いいなと思ったら応援しよう!

塚田裕介
基本的に全文見れますが、投げ銭と同じ扱いにしてありますので、作品や記事が気に入って頂ければ、ぜひサポートお願いいたします。