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事業承継できるかな 〜初案件! その6(サイトT編)〜

■今までのあらすじ

 ・ネットの事業継承サイト Tで、ニッチな分野に特化したソフトの販売事業の案件にエントリー。売り手の樋口社長と面談した結果、製品やライセンスの契約形態などに問題があると感じ、事業承継後の資金回収は難しいと感じた。

 ・樋口社長より「他の買い手候補のインフラ商店と組んでビジネスしたらどうか」と提案され、先方の担当、山田さんとお会いすることとなった。

 ・インフラ商店さんの事務所で面談。売れるかどうかの問い合わせに対し、現状のままでは売れない、と率直に話す。

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■インフラ商店さんの思いって・・・

「塚田さん、あのソフト(コンパスちゃん)、売れますかね

「申し上げにくいのですが、正直厳しいです。最新OSに対応していないし、今はサポートもないに等しいし。それに・・・」

「それに?」

「最新OSに対応するために、改修が必要です。当然、開発費用がかかります。さらに、コンパスちゃんはパピルス社オリジナルではなく、他社ソフトに機能追加している製品ですので、他社との絡みをクリアしておかないと、後でモメると思いますよ」

「仮にウチの会社と塚田さんで買ったとして、販売できるまで時間と労力がかかるってことですか」

「はい、そのとおりです、山田さん」

「ぶっちゃけた話、コンパスちゃんをいくらなら買いますか? 塚田さん」

「・・・XXX万円くらいなら」

「樋口社長はXXXX万円と言っているけど、それくらいが妥当ですよね」

満足そうに頷く山田さん。私と同じ想定金額だったようです。私は樋口社長から譲渡希望金額を聞かなかったのですが、早い段階で聞いていたようです。希望金額とだいぶ差がありますが、未知数の開発費用やサイトのリニューアルなど、販売までの準備費用を考えれば、相応の額かなと考えてました。

場の空気が少し落ち着いたので、山田さんに質問してみることにしました。それなりにコストがかかるにもかかわらず、コンパスちゃんにこだわる理由と拠点数と会社の規模が釣り合わない部分など・・・

「塚田さん、それはね」

山田さんもリラックスした様子で話始めました。

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インフラ商店さんは数年後の上場を目指しているそうです。そして、そのために他社製品を代理販売している現在の製品ラインナップを少しでも自社製品に変えたいのだそうです。コンパスちゃんはそのとっかかりとして、インフラ商店さんの方針に合致していたので、入手したいとのことでした。

なぜ、自社製品が欲しいか、というと、代理店販売ですと、どうしても製品を仕入れする費用がかかり、売上に対する利益が大きく変動することはありません。また、他社の方針で売れなくなってしまうこともあり、初期費用がかからない代わりに、大きく利益も上がらないのです。

それを自社製品に変えれば、開発や今回のような改修など販売までの初期費用はかかりますが、販売できるようになれば、自由に機能追加や改修も出来ます。何より、販売に関する費用(販管費)以外はかからずに済みますので、一回の販売に占める利益が上がります。製品のノウハウも自社に残るので、販売する営業マンの立場を考えれば、客先の質問でわからないところは技術側に聞けば、必ず何かしらの答えがあるので、安心感もあるでしょう。

また、デザインや建築関連の現場をつぶさに見てきたことで、関係事業の総合的なソリューションを目指したいそうです。そのためにM&Aで会社を買収することで、インフラ商店の支社もしくは支店ではあるけど、内実は他の会社が連合しているという体裁を作り、時間をかけて1つの会社として強固な組織を作り上げていきたい、とのことでした。このため、各拠点は独立色が強いそうです。

そのような企業連合体であれば、拠点がたくさんあることやサイトの社内的な情報が少ないのも納得がいきます。山田さんやインフラ商店の澤部社長はこれからが大変なんだろうな、と思いつつ、お話を伺っていました。

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たっぷり話をして気がついたら結構遅い時間になったので、次回の動きについて切り出すと山田さんがスマホを見て一言。

「樋口さんからメールが入ってましたよ。今日のウチらでの話の結果を持って三者で話をしたいって・・・」

「わかりました。こちらも日程調整してご連絡します」

インフラ商店さんから最寄り駅に向かう中、私の方針は決まりました。時間と労力をこれ以上かけないために、案件からキッパリ手を引くこと。次回の打ち合わせを最後にすること。あとは樋口社長の出方次第かな、と考えながら、電車に乗り込むのでした。

続く。

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塚田裕介
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