『真夏のリスタート』
イライラするのは暑さのせいだ。
昨日、理玖とケンカした。理由は、ゲームでオレがミスって、今まで2人で積み重ねて来たデータが消えたこと。そう、まったくもってオレが悪い。
ひたすら謝った。理玖の部屋の床に頭擦り付けんばかりに、謝った。いつもなら、そこそこ怒っても途中で諦めてくれる理玖だが、昨日は中々怒りが収まらない。こちらが悪いから黙って謝っていたが、怒りはオレがゲーム上で使っていたプレイヤーのキャラ設定にまで及んでいた。
最初から防御力が低かっただの、アイテムが使いこなせないのに持ち過ぎるだの、あの時の戦闘は動き悪かっただの。名前が悪いまで言い出されて、キャラ設定したオレまでが否定された気分になり、
「もういい!」
バンっと床を叩き付けて、オレは荷物を纏めて理玖の家を飛び出した。本当は、残りの日が少なくなった夏休みの課題を一緒に片付ける予定で集まった。数学が得意なオレと英語が得意な理玖。2人でやれば昨日半日で楽勝だったのに、余裕あるからちょっとだけとゲームを始めたのが悪かった。
そして、この暑さ。クーラーの無い理玖の部屋では限界がある。早々に図書館にでも移動すれば良かった。そしたら、あんなミスもイライラも無かった筈だ。
「はーっ…」
ため息をついても仕方がない。数学だけ取り敢えずやってしまおう。その前に冷たい物、飲もう。階下へ行き、冷蔵庫から兄貴専用のアイスコーヒーを飲んだ。きっと後から怒られるだろうけど、今のオレは兄弟ゲンカくらいなんでもない。ケンカしたって、結局は兄弟だ。言いたいこと言って殴り合ったとしても、顔突き合わせて暮らさなきゃならない。
その点友達は。休みの間は会わないからいいが、その分元に戻るタイミングも難しい。
冷たいアイスコーヒーが喉を潤すと、少し気持ちが落ち着いた。アイスコーヒーの苦味が、さっきの理玖とのケンカの苦味を薄めてくれるような気がした。
理玖と仲直りしたい。でも、どうやって?考えを巡らせながら数学の教科書を開いたが、頭に入ってこない。ふとスマホを見ると、理玖からの未読メッセージが一件あった。
「さっきはごめん。暑さもあって、イライラしすぎた。」
メッセージを読んだ瞬間、胸の中のわだかまりが少し解けた気がした。理玖も反省しているみたいだ。返信を打とうとすると、またメッセージが届いた。
「やっぱり夏休みの宿題、一緒に片付けよう。明日、図書館に行かない?」
その提案に、自然と笑みがこぼれた。やはり理玖とは一緒に宿題をするのが一番だ。返信を打ち始める。
「オレもごめん。図書館で会おう。今度こそ、ゲームはなしだな!」
送信ボタンを押した瞬間、再びスマホが震えた。理玖からの即レスだ。
「了解!ゲームは封印だ。あと、アイス持って行くよ。クーラー効いた図書館で頑張ろう。」
理玖の提案に心が軽くなった。図書館で涼みながら宿題を片付けるのは、理玖との関係も元に戻すいい機会だ。あのケンカも、これで終わりだと思うと、少し気持ちが楽になった。
翌日、図書館で待ち合わせた理玖は、昨日の険悪な表情ではなく、いつもの笑顔だった。アイスもちゃんと持ってきてくれていて、二人でアイスを食べながら宿題に取りかかった。数学も英語も、二人で協力してスムーズに進んだ。やはり、理玖と一緒にいると、何でも楽しくなる。
休み時間には、少しゲームの話もした。でも、昨日の反省を踏まえて、ゲームの話はほどほどに。これからは、お互いの気持ちをもっと大切にしようと思った。
「理玖、昨日は本当にごめん。」
「いや、オレも。これからはもっと涼しい場所で遊ぼうな。」
握手を交わして、二人の友情はさらに深まった。夏休みの宿題も無事に終わり、理玖との関係も元に戻った。暑さに負けず、これからも一緒に頑張ろう。
『真夏のリスタート』終