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斬新なアイデア!は前からあった方法だった。環境破壊から環境保全へのベクトル変換。POT et FLEUR


扇子の上に横たわるハミングバード。

 モノを作るのが好きです。あ、これ作ろう!と思いついた時の高揚感、製作中のドライブ感。人間に生まれてよかったー。 
 でも反面、私はこの「作りたい」という欲望に罪悪感を感じるのです。
 植物は土から養分と水分を奪い、植物は動物に食われ、動物も弱肉強食が基本。多種多様な生物の殺し合いの規模が大きくダイナミックであるほど食物連鎖は広がり、豊かな自然と呼ばれるのでしょう。全ては自分が生き残るためです。
 人間の脳も、すべての命の目的「生き延びる」がデフォルトされていますが、生き延び繁栄するために自然を利用することで、「何か作れる」能力がある人間が自然を壊してしまったようです。
 人間は、「考える」という人間の自然によって、人間外の自然と切り離されてしまったように思えます。私たちはもう思考を捨てて母なる自然には戻れません。なぜなら人間の脳は自然界の殺し合いの中から自分達を守るために、思考による創造的な行為には「喜び」という麻薬物質を肉体に与えてしまったから。私たちは何かを作り続けるしかないのです。
 英国ビクトリア朝、産業革命頃の人間の「創造性」がもたらした技術革命や工業化への熱狂ぶりに見ると、この私たちの「作る喜びという自然」がその他の「自然」を壊してしまったような気がしてしまうのです。
 冒頭の写真の扇子の上に載っているのは、本物のハミングバード。ビクトリア朝時代は、こんな可愛らしいハミングバードのミイラを扇子の飾りにしていたんです。
 今日はそんなビクトリア朝時代に遡るフラワーアレンジメントについてです。

大英帝国が生んだアレンジメントのスタイル

 2月の地元NAFASのフラワーアレンジメントの材料リスト。
 Must include growing plants and cut flowers.
 根っこ付きの植物と切り花両方用意しなさい。
 アレンジメ名は「POT et FLEUR」ポット・オウ・フラー。フランス語なのはそれがビクトリア朝時代、オシャレだったから。
 簡単に言えば、鉢植え植物と切花を一緒にアレンジメントすること。
 正直、好きなスタイルではないなと思ったのですが、少し引っかかるものがある。これって、実は今の時代にぴったりなのではないかな。

エリカとプリムローズは鉢植えのまま。水仙とヘレボルスはガラス瓶。ビバーナムの葉は周りのモスにさしてあります。隙間は小石で目隠し。

球根アレンジメント、でも土付きで。

 「春の花アレンジメント」でSNSを検索すると球根アレンジメントが溢れかえります。根っこを洗ったヒヤシンスやムスカリなどの球根を大きめな皿やガラス花瓶に入れてアレンジし、土台にモス(苔)やバーク(木片)などで、あくまで自然の景観そのままを切り取ったようなアレンジっです。
 この球根アレンジメントとpot et fleurの違いは、土付きのままの植物を使うこと。なので球根でなくてもオッケー。
 防水した入れ物に、土付きもしくはポットに入れた植物。合間にオアシスまたはガラス瓶などを入れてそこにカットフラワーを入れていきます。
 春は店に葉物が少ない上、春花も繊細なのでポットごと使うのは理にかなっています。ヒヤシンス、ムスカリ、水仙、チューリップ、プリムローズ、シクラメンなどが例として挙げられています。
 カットフラワーは季節の花限定、それに小枝や小石、苔など「woodland」の景観を作るための材料が推薦されています。
 もちろん春以外の季節でもpot au fleurはできます。
 このアレンジメントの一番の長所は「SDGsである」こと。
 鉢物の植物は基本、切花より長持ち。切花が枯れたら取り換えればまた楽しめる。球根などは花が終わればまた庭に戻すことで、来年また芽を出すから無駄がない。
 それはそれは、今の時代にぴったりなアレンジメントなのです。

イギリス人は球根大好き

 イギリスの春は球根の花たちが呼んでくると言ってもいいでしょう。どこの公園でも庭にでも、水仙からチューリップまで次々と咲いて楽しませてくれます。
 そんな球根をインドアに持ち込むのはイギリスのお家芸。
 18世紀において急速にガーデニングの関心が高まり、それはすぐに屋内での花や植物の使用に繋がりました。Wartian case(ウォードの箱)は植物運搬だけでなく、インテリアとしても使われるようになったことでもそれがよくわかります。中でも球根を屋内で展示することが流行したのです。
 1980年代以前のフラワーアレンジメントの本には、よく植木鉢の世話の仕方や植物の増やし方などにたくさんのページを割いており、なんでフラワーアレンジメントなのに鉢物の説明がこんなにあるんだろうと不思議に思っていました。
 自分で育てた植物をカットしてアレンジメントに使う目的もあったのでしょうが、これまではなんだか野暮ったい古臭いスタイルだなと思っていました。それが今回作ってみると楽しい!
 花と葉っぱと一緒なので、組み合わせる他の材料の用意も少なくてすみます。材料の合わせ方も、ガーデニングの寄せ植えする感じ。ナチュラルなアレンジが好きな人には挑戦しがいがあると思います。

プリムローズとティタティタは土ごと植えられてます。チューリップとアイリスは真ん中にオアシス。モスでカバーしてます。

SDGsにより復活トレンド

 さらに時代を経て現在2024年、地球環境の持続可能性と人間社会の文化・経済システムの持続可能性の両方を探るSDGsが大きなトレンドとなっています。
 人間が世界の自然を急速に悪化させた一因にはイギリスの産業革命もあると思います。当時のイギリス人は勇んで世界中に押しかけてあちこちの植物を持ち帰ってきました。
 これは私の想像なのですが、その当時のお金持ちのシンボルであったろう観葉植物の鉢物と庭に咲いている花とを「一緒にアレンジメントしてみんなに自慢しよう」と考えるのは自然なことだったのかも。
 しかし段々と自分で育てた植物ではなく、多種多様な花や葉物が買えるようになり、pot et fleurは忘れられてきたのでしょう。実際、nafasの会合に来ていたイギリス人たちも、このアレンジを知らなかった人が多かったです。
 昔と今でコンセプトも材料も全く一緒、でも、込められる思いのベクトルが真逆なフラワーアレンジメント。ビクトリア朝時代のpot au fleurが「自然破壊」序曲の一音符だとするなら、21世紀のpot au fleurは「自然との共存」交響曲の和音の響きであってほしいと願います。
 人間が壊したのなら、人間が責任を持って「考えて」「創造して」いく未来の自然が、思考を持った人間と共存融合する第三形態の自然なのかもしれないなあ、なんて考えました。

このアレンジのいいところはどんどん大きくできること。花屋のディスプレイでも鉢物を並べてその間にアレンジメントを入れると今までとは違ったテイストにできそう。

今日も花を通じていい日を過ごせました。carpe diem.

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