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知財部員が成果最大化のためにすべきこと

(本記事はパテントサロンの知財系Advent Calendar 2024の投稿です。)

私は大企業の知的財産部員として働いていたことがあります。出願・権利化に関する業務をこなしながらも、戦略面での経営層への提言なども行い、限られた業務時間でとても業務をこなしきれないと日々感じていました。

今は知財コンサルタントとして、事業会社の知的財産戦略に関するお手伝いをさせていただく機会が多くあります。

コンサルタントとして働く際に意識することは、依頼いただくプロジェクト成果を依頼していただく主担当者がどのように社内で活用していくのかということです。

プロジェクトの依頼内容をこなすことは当然として、担当者の業績評価につながるようなアウトプットになることを意識してプロジェクトを進めています。

この記事では、もし自分が事業会社の知財部員の立場に戻ったとしたら、どのように、自分の限られた業務時間を使うことが評価に繋がるのかと想像したことを書きます。

増える一方の知財部員に求められる要求


知財部に求められる期待はこの数年で大きく変わったと感じています。
出願・権利化業務のような従来からの業務に加え、IPランドスケープによる事業分析、知財情報開示といった役割ものしかかってきました。

出願・権利化業務

出張、権利化は従来から行われてきて、今でも知財部の業務の多くを占める業務です。

発明発掘→出願判定→クレームドラフト→特許事務所へ出願依頼→明細書確認→中間対応→年金管理→権利維持要否確認

外国出願を行う際には上記業務が数倍に膨れるイメージです。

私は事業会社で特定事業を担当していましたが、出願件数が多い事業だったこともあり、特許事務所から送られてくる各種書類の確認をするだけで、一日の業務時間の半分以上を費やしていました。

IPランドスケープ


”IPランドスケープ”という言葉が一般に浸透し始めてからもう何年ほど経つのでしょうか。随分定着してきました。

IPランドスケープを行うことで、自社の研究開発の方向性を定める取り組みが各社で行われてきました。

特許情報がビックデータの一つとして有効であると認知されつつあるものの、特許分析をある程度真面目に取り組んだ方はお分かりのように、ツールでボタン一発推したところで使い物になるアウトプットなどは出てきません。

事業計画や研究開発計画に紐づける形で分析の試行錯誤や公報の読み込みも通して、ようやく意味のある分析が可能になります。

近年の求人情報を見ると、IPランドスケープなどの知財分析を専門で行う人材を求める求人もちらほら見かけるようになりました。

しかし、多くの事業会社では、出願・権利化を行う知財部員が、限られた残りの業務時間でIPランドスケープに関する活動を行っているのが現実ではないでしょうか。

知財開示対応


2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂(以下、「CGC改訂」と言います)を受け、知財・無形資産の投資・活用戦略の開示が求められるようになりました。

各社で昨年末あたりから知財をどのように統合報告書に載せるべきか手探りで進めてきています。

先駆的に知財活動を意欲的に行っている企業もあれば、統合報告書に、保有している知財情報や知財部の取り組みを数行入れることに留まる企業もあります。

少なくとも、知財部はIR部門や経営企画部門と連携しながら、投資家向けにどのように知財情報を開示していくか(それとも開示しないのか)を考える時間が増えたことでしょう。

多くの知財部員にとって、投資家に向けた情報開示というのは不慣れな領域に違いがありませんから、苦戦するのは当然です。

この点でも、知財部に求められる期待が大きくなり、知財部員の負担も増大していると言えるでしょう。


限られた業務時間の使い方


事業会社は、勤務時間に制限があります。入退室を1分単位で管理されている。リモートワークといえど、PCへのログイン時間などもログを取られている。

サービス残業などもできないので、通常業務時間と、残業時間を使って成果を上げていく必要があります。

知財部員も当然ながらサラリーマンであり、業績評価に基づいて、出世や給与・ボーナスが定まります。

どのような活動が評価されるかを改めて考えてみると、出願・権利化活動は評価されにくいと言えるのではないでしょうか。

出願・権利化が多くの知財部の基本活動であり、価値の源泉であることは言うまでもないことですが、昔から行われてきた活動であり、”できて当たり前”で、評価者としても、一定以上の評価をしづらいのが実情でしょう。

評価者の立場に立つと、+αの活動を行ったことが評価しやすい。

+αの活動が何かというと、上述した”IPランドスケープ”や”知財開示”に関する活動が例えば一例として挙げられます。

しかし、知財部員が自ら行うには、時間やスキル・経験の不足により、十分な成果を出すことは難しいと言えるでしょう。

アウトソースの重要性


特許事務所にもっと頼る


特許管理、出願発掘、出願対応、中間対応は、特許事務所や特許管理会社に一任している事業会社は多いと思います。

もちろん特許事務所より事業会社の知財部員の方が、自社事業や製品のことは良く知っているので、補正案の確認など力を入れたくなるでしょう。

もちろん、意味のないほど権利範囲が限定されては元も子もありませんが、重要性の高い出願とそうではない出願がある場合、重要性の相対的に低い出願はある程度、特許事務所に任せて、知財部員は省力化することも一案でしょう。

特許事務所も出願数が減る中、ただ事業会社から指示される権利範囲のクレームを作って明細書を記載するだけでは差別化が困難です。

事業理解も踏まえた補正案を作れる弁理士の重要性が増すため、そのような役割を期待することを担当弁理士に伝えることで、知財部員は自らの明細書や補正案チェックに費やす時間を削減することが可能になるかもしれません。

外部コンサルティング会社の活用


IPランドスケープや、知財開示に向けたストーリー作りについてサービス提供しているコンサルティング会社や調査会社がいくつか存在します。

その質はコンサルタントや調査員によってばらつきがあるのが実情ですが、上手く活用できれば、知財部員は自身の時間を上手く使いながら、大きな成果を出すことができます。

そのためには、予算確保が必要であり、それらに予算を割くことの理解を上司や知財部長から得る必要があります。

これらの業務の外注になれていない事業会社の場合、予算確保が一番のネックになると思われますが、この点もまずはコンサルティング会社の担当者に相談しているとよいでしょう。

いきなり費用が発生するわけではなく、ヒアリングを通してのコミュニケーションは営業活動の一環として行うケースは多いです。

予算についてもプロジェクトの細分化で、対応できる場合もあるでしょう。

まずは、気軽に外部のコンサルティング会社や調査会社にコンタクトして、NDAの下、相談ベースでコミュニケーションすることも重要と思います。

コンサルタントと関係性が出来てくれば、いろんな便宜も図ってくれるようになるでしょう。

以上、ご参考になれば幸いです。

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