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のりたま物語 ハカセ師匠とのりたまくん 第零話 玉さんとのりたまくん

この物語は、フィクションです。


登場人物

玉さん … 藝人、漫才師、ハカセ師匠の相棒

のりたまくん … 売れないミュージシャン、趣味で音楽をしてる人


ガラガラガラ

のりたま「一人です。」

町中華の大将「あー。のりたまくん!また来たの!?今日は飲みすぎちゃダメだよ!」

町中華のお母さん「ホントだよ!あんまり飲みすぎると、身体に毒だよ!」

のりたま「はは。大丈夫ですよ。もうすぐ死にますんで。」

町中華のお母さん「まぁーた。そんなこと言って!」

のりたま「…。」

町中華のお母さん「…え?なに?あんた、なんか、変なこと考えてやしないだろうね!」

のりたま「!!な、なんで分かったんですか?お母さんは鋭いですね。白状しますよ。」

町中華のお母さん「?白状?」

のりたまくん「ボクは確かに、焼き餃子を水餃子のスープに浸し…!」

町中華のお母さん「ん?」

のりたま「それを手羽餃子の中に入れ込んで食べてみようとしました!…その事は謝ります!」

町中華のお母さん「はぁ?」

のりたま「でも、それが何なんですか!ちゃんとお金払えば良いでしょーが!」

町中華のお母さん「うん。…別にいいよー。うん。全然良い!むしろごめんなさい!疑ったりして!」

のりたま「え?なんだよ。まったくもぅ。」

のりたま「あ、お母さん、このお店で一番しょっぱいメニューを一つ!」

町中華のお母さん「なによ。また、変なこと言って。さっき焼き餃子と水餃子と手羽餃子とって言ってたのは、やめるの?」

のりたま「あ、そうでした。それで。それをしょっぱく出来ますか?」

町中華のお母さん「あんた、さっきから何言ってんの?しょっぱくしたけりゃ、テーブルの上にある調味料で自分でやりなさい!」

のりたま「あ!そっか!分かりました!すみません!ありがとうございます!あ、あと、皿うどんも。」

町中華のお母さん「あいよ!」

のりたま「…………。」

のりたまくんは、何やら袋を取り出した。

お母さんが餃子を持ってきてくれた。

町中華のお母さん「はい!お待ちどうさまー!のりたまくん!今日は餃子ばっかりになっちゃったね!あはは。まぁ、餃子は身体にいいから!たくさん食べなよー!」

のりたま「ありがとうございます。ちょっと隅の席に移りますね。」

町中華のお母さん「えぇ。構わないよ!」

のりたまくんは、端っこの席でコソコソと先ほどの袋から何かを取り出している。

のりたまくんは、テーブルの上の焼き餃子の一つを少しだけかじり、中身を半分以上掻き出した。

そこに、先ほどの袋の中から錠剤を取り出して、餃子の中に入れ込んでいる。

餃子は少し穴が空いたままなので、皿うどんの硬い麺を上手く使い縫うように蓋をした。

それを、軽く水餃子のスープに浸して、更に手羽餃子の中身を掻き出したところにねじ込んだ。

最初に宣言していた通りだった。

のりたま「ふぅーっ!よし!食べるぞ!」

その薬入りの手羽餃子のようなものに、たっぷりと餃子のタレを浸して食べようとした時に、のりたまくんは手を掴まれた。

男「おい。おまえなぁ。いけると思ったか?」

のりたま「…誰ですか?」

男「俺か?俺はな、藝人やってんだよ。みんなには『玉さん』って呼ばれてるから、お前も『玉さん』って呼んでくれ。お前の名前は『のりたまくん』だよな?会話が聞こえちまってよ。」

のりたま「…はぁ。それで、なんで、ボクが餃子を食べるのを止めるんですか?」

玉さん「あのなぁ。これのどこが餃子なんだよ。死ぬ気だったんだろ?薬入れるの見てたんだよ。」

のりたま「…そうでしたか。今日こそはと、思ったんですけどね…。」

玉さん「最初はね。何だか面白そうなことやってるなぁって思ってみてたんだよ。藝人やってっからよ。見ちゃうのよ。」

のりたま「はい。」

玉さん「そしたらよ。薬なんか入れだすからよ。これはダメだなって。…ていうか、斬新すぎるよ。ニュースにする方も混乱するわ。…あのよぉ。なんで、こんなことしたんだ?」

のりたま「実は…ボク、働きながら音楽やってるんですけど……心臓の病気になって、もう永くなくて…それで、もう落ち込んで鬱病にもなってしまって…もういいかなって。」

玉さん「あぁ、そうだったのかい…。あぁ…。そっか、そっか。」

のりたま「はい…。」

玉さん「じゃあ…まぁ…今日はよぉ。奢るから食べてよ。」

のりたま「ありがとうございます…。」

それから、のりたまくんは玉さんに飲みながら食べながら、今までの話をした。

1時間ばかり話した頃だったか、のりたまくんは寂しそうに言った。

のりたま「はぁ。ボク、今までいろんな人に迷惑ばかりかけてきたんですよ。なんかこう…最期くらい誰かの役に立ちたかったですねぇ。」

玉さんは、その寂しそうな表情を見つめながら考え込んだ。
そして、閃いた。

玉さん「あの〜。あのよ…ちょっとな。お願いがあるんだけどさ。」

のりたま「?なんですか?」

玉さん「俺よ。漫才師でよ。相棒がいるんだよ…。」

のりたま「あぁ。そうなんですか。」

玉さん「それでな。お願いってのがさ。俺の相棒が今、鬱病でお休みしててさ。ま、飲んでよ。」

玉さんは、ビールを注いだ。

のりたま「あら、そうなんですか。ボクと同じですね。」

玉さん「そうなんだよ。それでさ、のりたまくん、『人の役に立ちたかった』って言ってたでしょ。それで、ちょっと人助けするつもりで、やってほしいことがあるんだけど…。」

のりたま「玉さん、なんか言いづらそうですけど、何すればいいんですか?死ぬ前だし、面白そうなことじゃなきゃ、やりたくないかな。」

玉さん「あ、そう?それなら、言わせてもらうけど、俺の相棒の弟子になってもらえないかな?」

のりたま「ん?…え?どういうことですか?」

玉さん「だからぁ、相棒の弟子になるんだよ!」

のりたま「誰が?」

玉さん「キミが!」

のりたま「えー!何でボクが漫才師に弟子入りなの!?」

玉さん「人助けだって言ってんじゃん!」

のりたま「ど、どこが人助けなんですか?」

玉さん「俺の相棒はね、すごーく責任感が強いの、真面目なんだよ!だから、弟子が出来たら持ち前の責任感で、勝手に立ち直るんだって!そういうやつなの!」

のりたま「はぁ。そうなんですか。ボクが弟子入りして、元気づければ良いんですか?」

玉さん「いや!しなくていい!ただ、普通に弟子をやっていれば良いから!むしろ楽しんで!」

のりたま「そうなんですか?」

玉さん「どうだい?なんとなく、おもしろそうだろ?」

のりたま「まぁ、確かに、面白そうではありますね。でも、なんでそこまでするんです?」

玉さん「なんでって、そりゃあ…相棒だからだよ。」

のりたま「相棒かぁ……なんか、カッコいいですね。でも、藝人を目指している人じゃないと失礼にならないですかね?」

玉さん「本気でやるんだよ!本気で楽しんでくれよ!」

のりたま「本気で…。残りの時間を本気で藝人の弟子に。か。…よし、やってみますか!」

玉さん「ホントかい!?じゃあ、簡単なルールを決めるからさ、何かノート持ってる?」

のりたま「え、あぁ、小さいノートですけど…。」

玉さん「十分だよ!まずはな!ゆっくり焦らずに良くなってほしいから、復帰を急かさないこと!それからな!…

玉さんはノートにルールを書き連ねた。

  • 決して焦らない急かさない

  • 様子を見て、本人が家の外に出たいと言うタイミングを逃さない

  • 外に出ることに慣れたら、思い出の場所の話しを教えてもらう

  • 突然、玉さんが現れても偶然出会ったフリをする

  • ……

  • 玉さんに連絡を欠かさない

………で、最後が、俺に連絡を欠かさないこと!以上!」

のりたま「なんか、めちゃくちゃ嬉しそうですね。」

玉さん「あったりめぇよ!相棒のために一肌脱いでくれる男に逢えたんだ!こりゃあ運命だよ!最高な一日だよ!」

のりたま「おかげでボクは、自殺しようと思ってたのが失敗におわりましたけどね…。でも、なんか、ボクも楽しくなってきました。」

玉さん「あ、そう?それなら良かった!ハハハハハ!ノートのここな、住所書いといたから!訪ねてくれよ!」

のりたま「分かりました。あのー。ところで、相棒のお名前は?」

玉さん「あ!いっけねぇ!忘れてたよ!バカだねぇ〜俺は。相棒の名前はな!…ハカセ…って言うんだよ。」

のりたま「…あのー。ですから、名前ですよ。名前。」

玉さん「ん?……ハカセ?」

のりたま「いや、聞かれても困りますよ!名前が分からないと訪ねられないでしょ!」

玉さん「…さっきからハカセって言ってんじゃん。」

のりたま「なんでですか!?いきなり言って、『博士ですか?弟子にしてください!』じゃあ、おかしいでしょ!」

玉さん「…べぇつに、おかしくねぇけどなぁ。」

のりたま「そうなの!?え!?素朴な疑問なんですけど、玉さんの相棒の博士は、何の研究をされている博士なんですか!?」

玉さん「けんきゅう…?んー。まぁー。漫才だよね。あと、若かりし頃は風俗。」

のりたま「その人、大丈夫ですか!?」

玉さん「大丈夫だよ!藝人なんだから!」

のりたま「あ、そっか、藝人か。藝人で博士…ずいぶん変わってますね。」

玉さん「あ!のりたまくん、ひょっとして勘違いしてんのか!?相棒はな!芸名が『ハカセ』なの!」

のりたま「えー!?そうなんですか!?博士じゃないの!?」

玉さん「うん。博士じゃない。ハカセ。」

のりたま「ややこしいな!」

玉さん「まぁ、いいじゃねぇかよ。会ってみればわかるけど、本当の博士みたいに何でも詳しいぜ。すげえんだから!うん!」

のりたま「本当ですかぁ〜?」

玉さん「疑うねぇ〜。まぁ、いいよ。楽しみにしてなよ!」

のりたま「はい!」

玉さん「そろそろ行くかい。」

玉さんとのりたまくんは、店を出ることにした。

町中華のお母さん「ありがとね!またきてねー。」

のりたま「ごちそうさまでしたー!」

玉さん「また来るよー。ありがとねー。」

のりたま「いやー、玉さん、ごちそうさまでした!早くハカセに会いたいです。」

玉さん「ありがとね。」

のりたま「しかし、玉さんは相棒想いなんですね。」

玉さん「んー。どうかなー。俺がまた、相棒と舞台に立ちたいっていう我儘を、叶えようとしてるだけなのかも知れない…。まぁ、そんなとこだわ!」

のりたま「そうですか……あ!玉さん!そういえば、コンビ名って何なんですか?」

玉さん「あぁ、コンビ名はな…

その時、バァーーーーっ!と夜の風が一気に吹いた。
のりたまは目をつぶった。
真っ暗な視界に耳が澄んで、声がはっきりと聞こえた。

『浅草キッド』だ。じゃあな。」

目を開けたら、もう玉さんはいなかった。
夜空が、とても綺麗だった。


ハカセ師匠とのりたまくん
第零話 終わり


エンディングテーマソング

アサヤン
KeepWalking
作詞 のりたま
作曲 のりたま

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