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のりたま物語 ハカセ師匠とのりたまくん 第十話 終わりの手紙

この物語は、フィクションです。


登場人物

ハカセ師匠 … 藝人、漫才師、玉さんの相棒、のりたまくんの師匠

玉さん … 藝人、漫才師、ハカセ師匠の相棒

のりたまくん … ハカセ師匠の弟子なのかどうか、疑わしい男


フランス座、本番前の楽屋

ネタ合わせをする二人

ハカセ「よし、すごくいい感じだね!」

玉さん「おう、そうだね!」

ハカセ「ちょっと休憩しようか!」

玉さん「おっけー。いや、歳のせいか疲れるね!」

ハカセ「なに言ってんの!?玉さん、まだ若いじゃん!ボクなんか64だよ!」

玉さん「え!?そんなになるんだっけ!?全然見えないよー!どう見ても63だよ!」

ハカセ「やかましいよ!」

ハカセ「はははははは!」
玉さん「あははははは!」

玉さん「いやー。バカだねぇー。最高。」

ハカセ「ホント。最高。」

ハカセ「よっしゃ!舞台衣装なんだけどさ、約束通り、これ、持って来たよ。」

玉さん「マジで!?」

ハカセ「ダイエットもした!」

玉さん「マジで!?着れる?」

ハカセ「ギリギリ!」

玉さん「流石だねぇ。やるときゃ。やるねぇ〜。舞台で動き回って破けたら最高だね!」

ハカセ「なんでだよ!」

玉さん「早速、着替えるか!あ!その前に一服だけさせて!」

ハカセ「いいよ!待ってるよ。」

楽屋で一人過ごす時間。
ふと楽屋の隅に目をやると、のりたまくんのリュックからノートが少しだけ見えている。

ハカセ(ん?)

ハカセ師匠は、のりたまくんの『ネタ帳』かな?と思って、そのノートを見た。

ハカセ(…………え?………そうだったのか…)

ガチャ

玉さん「おまたせ!おまたせ!」

ハカセ師匠は少し驚いて、ノートを閉じてのりたまくんのリュックにサッとしまった。

玉さん(?…)

ハカセ「うん!着替えよう!」

二人は舞台衣装のスーツに着替えた。
それは、以前フランス座で漫才をよくやっていた時に着ていた衣装のスーツだった。
二人は、ゆっくりとスーツを着て、ボタンを止めた。
静かな時間が流れた。

…二人の表情が変わる…

ハカセ「赤江くん、じゃあ、舞台袖で待機しよう。」

赤江くん「そうですね。小野さん。」

扉を開けて廊下を歩いていく。

角を曲がったところで男とぶつかってしまうが、二人は集中しているので気にならなかった。

赤江くん「ごめんよ。こっちも急いでたもんでよ。じゃ。」

二人は止まらずに通り過ぎた。

そして、本番まで舞台袖で集中した。

小野さん「…………」

赤江くん「…全部…知っちまったんですか?」

小野さん「…あぁ。」

赤江くん「そうですかぁ…。余計なことを、してしまいましたかね。」

小野さん「相棒同士のことに、余計なことなんてないよ。ありがとう。」

赤江くん「小野さん…。」

小野さん「…そろそろか…こんな時、殿だったらタップ踏んでるんだろうなぁ。」

赤江くん「そうですね。…小野さん、タップ踏んでみてくださいよ!」

小野さん「えー?下手なの知ってるでしょ?ジタバタするだけなの知ってるでしょ?」

赤江くん「そうだったかなぁ〜。確認させて!お願いします!」

小野さん「しょうがないなぁ。」

バタバタ!バタバタ!ジタバタ!

赤江くん「くっくくくくく。ちょっと待って。これが今日一番おもしれぇんじゃないの?」

小野さん「ふふ!ダメだろ。漫才が一番じゃなきゃ。だから、言ったでしょ。下手だって。」

赤江くん「あはは。すみません。すみません。…でもね。…昔より、少し上手くなってましたよ。」

小野さん「お!?嬉しいこと言ってくれるね相棒…。よし!行こう!」

赤江くん「はい!」

小野さん「どーもー。」
赤江くん「よっしゃー!どーもー!」

大歓声

バァーン!
(会場が笑いで爆発する音)



小野さん「ありがとうございましたぁー!」
赤江くん「ありがとうぅー!ありがとうございましたぁー!」

大歓声

小野さんと赤江くんは、舞台袖で堅い握手を交わした。

小野さん「最高だったね。」

赤江くん「最高だった!」

小野さん「よし、これは、なんていうか、あれだね。…最高だったね。」

赤江くん「最高だった!」

小野さん「…」

赤江くん「…語彙力…」

小野さん「…うん、よし!のりたまくんのいる楽屋に戻ろう。」

赤江くん「はい。分かりましたぁー。」

2人は少しボーッとしながら楽屋に帰った。

楽屋にはスタッフさんはいるが、いるはずの人がいない。

2人はとりあえず、スーツのジャケットを脱いだ。

玉さん「ハカセ!これ!」

玉さんが見つけたのは、のりたまくんの手紙だった。

ハカセ師匠は急いで読んだ。

途端に走り出した!

玉さん「おい!ハカセ!」

 ハカセ師匠へ

ハカセ「はぁはぁ」

 突然いなくなって、ごめんなさい。

ハカセ「はぁはぁ」

 もう知っているとは思いますが、ボクは藝人を目指してはいないのです。
 ただの売れないミュージシャンなんです。

ハカセ「はぁはぁ」

 心臓の病気になり、自暴自棄になっていたところで玉さんに知り合い、ハカセ師匠に近付いて弟子入りしました。

ハカセ「はぁはぁ」

 理由はご存知の通りです。

ハカセ「はぁはぁ」

 人生の最期に、ハカセ師匠と笑えて楽しかったです。

ハカセ「はぁはぁ」

 ありがとうございました。
 ハカセ師匠。
 さようなら。

ハカセ「はぁはぁ。はぁはぁ。…」

人だかりができている。
声が聞こえる。

「おい!誰か倒れてるってよー!」

ハカセ師匠は、人集りを押し退けた。

そこには、のりたまくんが倒れていた。

ハカセ師匠は、急いで抱き抱えて話しかけた。

ハカセ「のりたまくん!な、なんだよ!ギャグか!?こ、こんなのな!面白くないぞ!ボクは…好きじゃないな!」

のりたま「…ハカセ…ボク…藝人になれません…。」

ハカセ「分かってる!手紙読んだよ!いいよ!いい!」

のりたま「ネタ浮かばないし…でもね…曲なら…浮かんだんですよ…へへ…」

ハカセ「おお!そうか!じゃあ、今度聴かせてもらわないとな!だから、死ぬんじゃないぞ!」

のりたま「…生きて…ボクに何を…やれって言うんですか…」

ハカセの頭の中に、殿の声が蘇る
 殿「藝人だよ。バカやろう。」

ハカセ「うう…うう…藝人でもミュージシャンでも、のりたまくんが好きなことをコツコツやればいいんだよ!………バカやろう…。」

のりたま「…あはは…ハカセ…長いですね。」

ハカセ「うう…うるさいよ。」

のりたまくんは、目をつぶって動かなくなった。

救急車で運ばれて行く。
その姿をただ見ていることしかできなかった。

茫然と立ち尽くすハカセ師匠。
そこに玉さんがやって来て、

玉さん「ハカセ…今運ばれたの…」

ハカセ「あぁ…。」

すぅーっ!

ハカセ「うわぁぁぁぁぁぁぁ!あぁっ!もぅっ!何にも出来ないな!何にも!」

玉さん「ハカセ……十分やったと思うよ。ホントに。あいつ、楽しそうだったぜ。」

ハカセ「うぅ…。」


1年後…


玉さん「ハカセ!」

ハカセ「おはよう。ごめんね、朝早くから。」

玉さん「流石に気合いが入ってるね!ネタ合わせ、今日もたっぷり出来そうだな。」

ハカセ「そうだね。良いものを観てもらいたいからね。さっそく行こうか。」

玉さん「ハカセ!」

ハカセ「ん?」

玉さん「その前に、手を合わせてから行こうぜ。」

ハカセ「いいね。行こう!」

パン!パン!

……

玉さん「なぁ、ハカセ、あいつは結局何にもなれないまま終わっちまって残念だったけど、その分、俺らが頑張ろうな!」

ハカセ「バカやろう!」

玉さん「え!?」

ハカセ「のりたまくんは、ボクに言ったんだよ。「曲は出来たんですけどね」って。その曲がやっと見つかったんだよ。」

玉さん「え!?ホントかよ!?やったじゃねーか!」

ハカセ「うん!だから、まだ、のりたまくんははじまってもいないんだよ。」

玉さん「あ!そのセリフ!俺、言いたかったな〜。」

ハカセ「へへ〜。いいだろ〜!」

玉さん「腹立つな!まぁ、いいや。ところでよ。のりたまくんの曲は、なんていう曲なんだい?」

ハカセ「うん。タイトルはね。…アサヤン…だよ。」

ハカセ師匠と玉さんは、顔を見合わせてニヤッと嬉しそうに笑った。


ハカセ師匠とのりたまくん
第十話 終わり


エンディングテーマソング

アサヤン
KeepWalking
作詞 のりたま
作曲 のりたま

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