のりたま物語 ハカセ師匠とのりたまくん 第七話 ネタをカキカキ
この物語は、フィクションです。
登場人物
ハカセ師匠 … 藝人、漫才師、のりたまくんの師匠
のりたまくん … ハカセ師匠の弟子
殿 … ハカセ師匠の師匠
カキカキ カキカキ
のりたま「ハカセ、何を書いていらっしゃるんですか?」
ハカセ「あぁ、ネタだよ。漫才のネタを書いてるんだよ。」
のりたま「漫才のネタですか…え!?ハカセ、漫才のネタを書いてるんですか!?」
ハカセ「うん。そうだよ。どんどん思い浮かんできてるんだ。今のうちに書こうと思ってね。なんかもう、ニヤニヤしちゃうよね。」
のりたま「そうですか!」
ハカセ「まぁ。この後に書くこと無くなって苦しい時間帯がきっと来るんだけど、それも含めて漫才のネタを考えるっていう…醍醐味!だよ。」
のりたま「へぇー。なるほどー。師匠、勉強になります!」
ハカセ「そうかい?」
のりたま「…ドM…ってことですね?」
ハカセ「…うん、なんか違う感じに伝わったみたいだね。…気が散るから、結構遠めの喫茶店にコーヒーのテイクアウトをお願い出来るかな?」
のりたま「え?コーヒーでしたら、近くの喫茶店で美味しいのが買えるじゃないですか。」
ハカセ「のりたまくん、なんと、この場合のコーヒーは味を求められていない!非常に珍しいものなんだよ!できるだけ遠くの喫茶店が良いな!!しばらく帰ってこられないようにぃ!!!」
のりたま「え?最後になんか言いました?」
ハカセ「…いや、あのちょっと遠いけど、新しく出来た喫茶店がいいなって言ったんだよ。」
のりたま「あー。はいはい!分かりました!行ってまいります!」
ハカセ「はーい!いってらっしゃい!」
バタンッ。ガチャ!
ハカセ師匠は、高速で鍵を閉めた。
チャラチャラチャラ!
ドアチェーンもかけた。
ハカセ「よーし!集中するぞ!」
カキカキ カキカキ
カキカキ カキカキ
カキカキ カキカキ
カキカキ カキカキ
ハカセ師匠の筆は止まらない。
どんどんアイデアが浮かんでくる。
どのくらいかと言うと。
この「カキカキ」だけを2000文字くらい続けて、第七話を終わらせても良いんじゃないか?というくらい筆が止まらないのだ。
うん。ちょっとこれは何言ってるか分からないのだ!
ハカセ「やあぁぁかましいわぁぁぁぁい!のりたまくん!いや!のりたま!コラ!おまえだろ!あ!やっぱり!!」
ハカセ師匠が見つけたのは、室内に隠されていたBluetoothのスピーカーだった。
のりたまくんは、スピーカーを隠しておいて外に出たところで、
「カキカキ カキカキ」
と言っていたのだった。
ハカセ師匠は、カーテンをバッ!と開けた。
窓の直ぐそばにスマホを持った のりたまくん がこっちを、眼をギラつかせながら見ていた。
ハカセ「こおぉわっ!怖いわ!やめなさい!これは、お笑いを超えました!ホラーに突入しましたー!おめでとうございまーす!」
のりたまくんは、窓の外でパントマイムで、
(え?ワタシが?…ありがとう…ございます…。)
と感無量の表情を浮かべる。
ハカセ「全然褒めてないのよ!!!早くコーヒー買いに行って!!!!!」
のりたまくんは、また窓の外でパントマイムで、
(え?ワタシが?………ムスッ!)
とした表情を浮かべた。
ハカセ「いや、そりゃそうだろ!行きなさい!」
のりたまくんは、やっとコーヒーを買いに行った。
ハカセ師匠は、ネタを書く。
今日は本当に調子が良く、どんどん思い浮かぶ。
ハカセ(昨日、玉ちゃんに会えたのは大きかったなぁ。良い刺激になった!楽しい!)
ハカセ師匠は嬉しかった。
一気にネタを書き上げて、ふぅーっと息を吐いた。
…少しやり切った感じで、昔のことを思い出していた。
ハカセが、殿(ハカセの師匠)に弟子入りしてしばらくした頃。
ハカセと玉さんは、漫才がウケなくてスランプになったことがあった。
ハカセは真面目な性格なので、弟子の自分達がウケないことで殿に恥をかかせてないか?と余計に心配になり、悪循環におちいっていた…。
そんなハカセのところに、殿がわざわざ足を運んでくれたのだ。
殿「おう。ハカセ。どうだ?調子は?」」
ハカセ「殿!?も、申し訳ありません!最近、調子が悪くてウケなくて…。が、頑張ります。」
殿「…そうか…。」
殿はハカセの肩にポンと手を置いて、
殿「それもネタにしてるか?」
ハカセ「は?」
殿「いやな。それもネタにして、笑わせてやるんだよ。笑われるんじゃないぞ。笑わせるんだ。」
ハカセ「そ…それも…ネタに…。ボクは…いったい何を…何をしたら…」
殿は、フッと微笑んで、とっても優しく。
殿「藝人だよ、バカやろう。」
殿はハカセの肩を、ポンポンッと軽く叩いて立ち上がった。
殿「じゃあな、新しいネタ、楽しみにしてるよ。頑張れよ。」
ハカセはポロポロと涙を流しながら、深々と頭を下げた。
ハカセ「………思い出すなぁ。……かっこいいなぁ。殿は。よーし!もうひとネタ作るか!!!」
のりたま「ただいま戻りましたぁー。」
ハカセ「あ、お帰り、のりたまくん。コーヒー、ありがとね。あ!それで、ホントに悪いんだけどね、コーヒーを持ち帰りで買って来てもらえる?」
のりたま「?え?今、買って来ましたよ。」
ハカセ「うん。そうだよね。コーヒーなんだけど、今度は10駅ほど隣りの喫茶店のコーヒーをお願い!」
のりたま「10駅!?そこの喫茶店が良いんですか?」
ハカセ「うん。そこに喫茶店があるかどうかも分からないんだけどね。あると思うから、ちょっと行ってみてくれるかな。」
のりたま「な!なんですか!それは!?謎の喫茶店ですか?謎の喫茶店の謎のコーヒーを手に入れるミッションってことですね!よーし!やってやろうじゃないですか!」
ハカセ「お!?なんか良い感じに勘違いしてくれたぞ。よーし、よしよし、そうそう、謎の喫茶店を探しに行ってください。よーい、どん!と。運動会みたいに言っちゃった。てへへ。」
バタタタタタタタタタ!!!!
のりたまくんは、高速ダッシュで駆け抜けていった。
ハカセ(ホントに運動会みたいに行っちゃったよ。)
ハカセ「よし!書くか!」
ハカセ師匠は、ネタを書き続けて夢中になっていた。
ハカセ…ハカセ…
ハカセ「ん?…あ、あぁ、あれ?…ボク…寝ちゃってたんだ。」
のりたま「はぁはぁはぁはぁ。」
ハカセ「なになに?どうしたの?」
のりたま「走って…はぁはぁ…行ってきたので…はぁはぁ…息が切れまして…」
ハカセ「え?なんで走ったの?そんなこと言ったっけ?」
のりたま「よーい、はぁはぁ…どん!って…はぁはぁ」
ハカセ「…それだけ?理由は、それだけ?」
のりたま「はい…なんか、そんな感じに…なっちゃうでしょ?」
ハカセ「ならないよ。コーヒーは?」
のりたま「はい。こちらです。」
ハカセ「おまっ!走ったからビシャビシャにこぼしてるじゃないか!あれ?ちょっとまって!……これ、こぼしすぎて中身ちょっとしか無いじゃん!」
のりたま「はい!ハカセ!こちら、こぼしすぎて、ちょっとしかないコーヒーでございます。」
ハカセ「いや、知ってますよ。今、ボクが言いましたよ。何で自分が気付きました!みたいに言ったのよ。のりたまくん!そういうとこだぞー。」
のりたま「ぞぉ〜。」
ハカセ「おい、おい、イチャついてくるんじゃないよ。ボク、師匠ですよ?キミ、弟子ですよ?」
のりたま「…ちょっと何言ってんのか分かんない。」
ハカセ「分かれ!」
のりたま「まぁまぁ、コーヒー飲みましょ。」
ハカセ「え?あぁ、まぁ、飲むけどさ。ありがとうね。買って来てくれて。」
のりたま「どういたしまして。」
グビッ
ハカセ「……もう無い。」
のりたま「このコーヒー少ないですね。」
ハカセ「オマエが言うんじゃないよ!…でもまぁ…最高に美味しいコーヒーだったよ。」
のりたま「ハカセ…うぅ…嬉しい……ボク、もう一杯買って来ます!」
ハカセ「もういい!もういい!」
ハカセ師匠とのりたまくん
第八話へ つづく
エンディングテーマソング
アサヤン
KeepWalking
作詞 のりたま
作曲 のりたま